第92回   産みたい時が妊娠適齢期?!
2013年11月20日  
 
   愛知県産婦人科医会の会長になってから、講演依頼や、雑誌やテレビの取材が増えました。取材内容はそれぞれ違いますが、いずれの場合でも強引に、一言は妊娠適齢期について話すことにしています。このコラムでも今年の年頭で“今年もしつこく繰り返しお話しする積りでいますので、お覚悟を!”と布石を打っておきましたが、要するに“妊娠・出産にはそれに適した年齢がありますので、ぜひ適齢期の内にお子さんを産んでください”と呼びかけているのです。
 余談ですが、昔、結婚適齢期と云う言葉がありました。結婚後は妊娠・出産と続きますので妊娠適齢期と云う意味も言外に含んでいたと思います。今は結婚したい時が適齢期と云う訳でほとんど死語になりましたが、結婚適齢期は消滅しても、妊娠適齢期は今も厳然と存在します。
 それでは“妊娠適齢期とは如何に?”と云うと、“最も安全に妊娠・出産が出来る年代”と云うことになります。それは何時かとなると、“初産年齢が20才代、出来れば20才代前半がベスト。第2子以降も若い方がベター。逆に云うと高年齢妊娠・出産はリスクが高いので避けましょう”と云うことです。“何故か”と云うと、医学的な観点から説明すれば、卵の老化と云う重大な問題があります。実は卵は新生児の時には200万個位あります。それが淘汰され初経が始まるころには30万個ほどに減ります。それでも12才から50才まで排卵が有るとして、原則、月1個だから精々500個も有れば充分で、如何にも余裕が有るように思われますが、実は一回の排卵毎に数百個の卵が消滅しますので、35才頃になると極端に卵の数が減り、その上卵そのものも老化してきますから、排卵する卵の質が落ちてしまいます。その結果、受精卵になれなかったり(不妊)、受精しても分割が上手く行かなくて正常な胚になれなかったり(流産)、育っても染色体異常など障害のある児の生まれる確率が高くなります。
 一方で、妊娠・出産には大変な体力を要します。妊娠中は、体内でもう一つの命を育てている訳ですから、母体に大きな負担がかかります。例えば、妊娠中に約10s増える体重を支えなければなりませんし、血液も1.4倍に増えますが、その分心臓も働かなくてはなりません。そして出産となれば、産みの苦しみと云われるように、長時間の陣痛の痛みに耐え、その上最後の力を振り絞って児を娩出しなければなりません。まさに体力勝負です。
 だから、若い、20代の体力・気力、十分な時期に産んだ方がより安全で有利なことはお解り頂けたと思います。
 しかし、今まで説明したこととは矛盾しますが、高年初産は大変だけれども、でも素敵だなと思う事例もありました。ここからは守秘義務もありますのでフィクションです。
 先日、ある会で可愛いお嬢さんを連れた友人夫妻と会いました。奥さんが“この人が貴女を取り上げてくださった先生よ”と紹介してくれましたが、まだ3才のお嬢さんはキョトンとしていました。夫婦の年恰好からすれば、如何にも小さいお子さんですが、とても幸せそうで心温まる光景でした。友人は先妻に先立たれて再婚したのですが、先妻との間にも子供に恵まれず、後妻さんにもなかなか出来ないので、焦って私に相談に来ました。“頑張っているけど、子供が出来ない。前の人にも出来なかったので、私に欠陥があるのだろうか?”“あるかもね!。貴方幾つになった?奥さんは幾つなの?”“私は61になったところです。私の年の性かな?でも嫁さんは若いですよ、まだ40だもの”“貴方には若くてもったいない位の素敵な奥さんだけど、妊娠と云う点ではぎりぎりの年齢だよ。”“えぇ!嫁さんが年ですか。信じられない!でも、どうしても一人は子供が欲しいから、何とかしてください!”と云うようなやり取りの末、とに角、早く二人の検査をしようと云うことになりました。結果は夫婦とも重大な異常はありませんでしたが、二人の年齢のことも考えて不妊治療に入ることになりました。最初はAIH(人工授精)を3周期試みましたが妊娠しなかったため、本人の希望もあり、早めに体外受精に切り替えました。そうしたら2回目の治療で見事受精しました。これは高齢なカップルにとって幸運な出来事でした。
 又余談ですが、体外受精など高度不妊治療は施設によって多少の差はあれ、概ね30%弱の妊娠率です。要するに30%の夫婦には喜んでもらえますが、70%の人の期待に沿えない分野ですので、我々医療者は忸怩たるものが何時もあります。いずれにしても、少しでも若い方が妊娠率は上がりますので、早めの治療をお勧めします。
 さて、奥さんは妊娠に関して本当に良く勉強され、高齢妊娠で気をつけなくてはいけないこと,又おこなった方が良いこと等、適格に判断して養生されていました。妊婦健診時は何時も友人がついて来て、二人で超音波の胎児画像を見ながら、その成長ぶりに嬉々としていて、彼にこんな一面が有ったかと私も微笑ましくなりました。それでも妊娠後期に軽い妊娠高血圧症に罹り、高年と云うこともあり大事を取って入院安静治療としました。高年初産で、妊娠高血圧症も併発しているので、早めの帝王切開を勧めたのですが、出来るだけ経腟分娩を経験したいと云う希望があり、陣痛を待つことにしました。しかし、安静にしているのでなかなか陣痛が来ません。彼女より私の方が焦っていましたが、やっと陣痛が来て分娩開始となりました。ここからが、私達医療者も感銘を受けた、彼女のお産に対する姿勢でした。やはり高年初産のためだと思いますが、なかなか分娩が進行しません。こんな時、若い人の方が早めに切れて“もう我慢出来ない.お腹切って”と騒ぎだすことが多いのですが、彼女は私や助産師の説明を充分理解して、赤ちゃんが元気な内は耐えると云うことで、歯を食い縛って頑張りました。そして48時間位の忍耐の末、見事2800gの女児を娩出したのです。彼女の分娩に対する真っ向からの挑戦、高年による難産を承知の上で冷静に対峙された、真摯な対応に私は久しぶりに感動を覚えました。齢を重ねた為に逆に出来たことかもしれません。無邪気にハシャイでいるお嬢さんを見ながら3年前のあの感動的なお産を思い出して、高齢出産も悪くないなと勝手なことを考えていました。
 これも余談ですが、昨日の虐待予防委員会で、母親の年齢が24才以下だと25才以上より有意に虐待率が高いと云うデータが出ていました。10代ならとも角、24才でもこんなことでは “若いうちに産め!産め!”とあまり云えなくなってしまいます。困ったものです。
 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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