2010年2月19日
第47回
バンクーバー・オリンピックで想う事

 愈々バンクーバー冬季オリンピックが始まりました。スポーツ大好き人間で、自称万能スポーツ評論家としては、出来るだけ沢山の実況放送を見て、興奮したり、感激したり、解説したり、或いは文句を云ったりしたいのですが、如何せん時差の関係で、Live中継がほとんど午前中にありますので、流石に診察をサボってまで観る訳にもいきません。仕方なく後ろ髪を引かれる思いで、心ここに在らずの診察が続く今日この頃です。(これは冗談、診察は患者さんの為に心を込めて一所懸命しています。念のため!)。夜のハイライト番組では、結果は判りますが、途中経過が今一はっきりしませんので興奮出来ません。又、一族郎党に的確な解説をしたくても(本人たちは望んで居ないかも知れませんが、でも当直の夜に“先生、あの勝負はどう見ます?”とか云って私にヨイショする可愛い職員も居ます)、詳細なネタがありませんので勝負のアヤにまで及んだ解説が出来ません。
 例えばノルディック複合の小林範仁選手。後半距離を12位でスタートして、途中で首位グループのお尻に付け、ラスト1周の下り坂で一気に首位に立って・・・、しかしハイライトでは直ぐゴールの映像に変わって、“残念ながら力尽きて結局7位でした”と云うナレーションが入りました。興奮する間もなく“なぁんだ”と云う事ですが、もしLiveで見ていたら、去年の世界選手権の団体の時の様に、このままトップで行くのではないかと大興奮した事でしょう。又何故失速したかも分析出来て的確な解説が出来ると云うものです。一方、スピードスケート・男子500Mは、整氷車にトラブルが生じて2回目のスタートが随分遅れました。その為、丁度我々の昼休みの時間にずれ込んで幸運にも、長島圭一郎選手や加藤条治選手の2本目をLiveで見ることが出来ました。結果が銀・銅と良かったせいもあり、手に汗握って見ていました。特に最終組の加藤選手がスタートする時には、“もう日本のメダルは確定したのだから、一か八か、金を狙って思い切り滑べれ”と勝手な檄を飛ばしていました。もちろんこれは我々日本人野次馬の身勝手な計算で、本人は個人的な事を考えて勝負に臨んだでしょうが・・・。
 話が飛びますが、翌日の女子500Mでは、韓国の李相花選手が女王ウォルフ選手を抑えて優勝し伏兵ぶりを発揮しました。それに絡んで、スポーツライターの増島みどりさんの(この人は充分な知識に裏打ちされ、しかも人に優しい心温まるコラムを書くので以前から私はフアンです)楽しいコラムが中日スポーツに載っていましたので紹介します。1ヶ月ほど前に、増島さんが李選手にインタビューした時の事です。“韓国でスケートの女子選手と言えばみんなフィギュアのキム・ヨナ選手を挙げて私の名前をあげる人は一人もいません。韓国中がキム・ヨナ選手の金メダルを期待しているその前に私が金メダルを取ったらどんなに驚かれて楽しいだろう。そんな夢を実現したくてワクワクしています”と悪戯っぽく語ったそうです。そして見事実現しました。なんとも爽快で愉快な話ではありませんか。日本にもこんな選手がいて欲しいですね。涙ながらに敗戦の弁ばかり語らずに・・・。
 いずれにしても、競技も始まったばかりで、しかもあまり観れていないので、自称万能スポーツ解説者としては、競技の名解説が出来ないのが残念です。
そこで今回は視点を変えて、オリンピック選手の国籍問題について少し考えてみたいと思います。先日のフィギュアスケート・ペアでロシア代表として出場した川口悠子選手。彼女は名古屋出身だそうですが、ロシアのモスクビナと云う名コーチの指導を受けて頭角を現し、ロシアの男子選手とペアを組んで、世界選手権などは、ロシア代表として試合に臨んでいました。オリンピック以外はペアの場合、男女どちらかの国の代表として出場する事が出来るのですが、オリンピック憲章では、競技者は出場する国の国民でなければならない。と定められています。ただし、細則として、① 二つ以上の国籍を有する場合はどの国で出場するかは本人が判断できる。② 国籍を変更して3年以内の場合は、競技団体などの同意があれば出場できる。としています。その為彼女は悩みに悩んだ末、ロシアに帰化すると云う一大決心をしたとの事です。残念な事にメダルを逸しましたが、実はロシアは旧ソ連時代から、ペアは12連覇しており、ロシア・トップペアの彼女たちに13連覇が架かっていたのです。凄い重圧だったと思いますが、彼女の転倒などが減点の対象になりましたので、純粋のロシア人で無い彼女に対するロシアの風当たりが心配な気もしますが、そんな事は杞憂でしょうか。又帰化までして結果が出なかった事に彼女はどんな思いでしょう。名古屋出身と云う事もあって他人事ではありません。
 フィギュアスケートに限ってもまだ幾つか例があります。テレビのコマーシャルで有名な井上玲奈選手。彼女は日本国籍でも2度オリンピックに出ていますが、トリノ大会では、米国籍を取得してペアの米国代表として出場しています。ただ彼女の場合は、相手の男子選手が後に旦那さんになる人だったので国籍変更にあまり抵抗は無かったかもしれません。細則①の適応で米国代表として出場する長洲未来選手は両親は日本人ですが本人が米国生まれで日米両国籍を持っている為、選手層の厚い日本より現在住んでいる米国を選んだようです。逆にアイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード姉妹は父が米国人、母が日本人で両国籍を持っていますが、代表に選ばれ易い日本国籍で出場権を得ました。スケート以外でもオリンピックに出場する為に国籍を変更する人は、ヨーロッパどうしなどでは沢山います。やはりアスリートに取ってオリンピックとは帰化してでも出たい特別なイベントなのでしょう。ましてやメダリストになれれば、国籍などはどうでも良いのかもしれません。ただ誰もが進んで国籍を変更した訳でもありません。ペアのカナダ代表で活躍した若松詩子選手はトリノ大会前、悩んだ末に申請を取り下げています。やはり国籍を変えると云う事は本人に取っては重大問題だろうと思います。
 しかし、応援する方はどうなのでしょう。にわか国民には熱が入らないかもしれません。逆に私などはロシア国籍でも名古屋出身の川口選手に日本人並みに応援してしまいます。今大会でも私の知らない国籍変更者はまだ何人か居るでしょうが、皆悔いの無い様に頑張ってもらいたいものです。