第15回 ジューンブライド(6月の花嫁) 2007年6月20日  
 
   西洋では6月が結婚の守護神ジュノーの月であることから、この月に結婚する花嫁は幸福になるとされていて、6月の花嫁をジューンブライドと云って持てはやされています。日本では梅雨の時期でもあり、この時期の結婚式は多少鬱陶しい気もしますが、異文化を何でも取り入れて上手に日本的に吸収してしまうわが国では、いつの間にかジューンブライドも定着して、6月の結婚式が多くなり予約が取り難くなったとの事です。多分商魂も絡んで裏に上手な仕掛け人が居たことでしょうが・・・、まあ理由はとも角、若い人達がどんどん結婚してくれることは少子化対策からも大変結構なことですので、政府も大いにジューンブライドを宣伝したら如何でしょう。そして、翌月になってハネムーンベビーの患者さんが増えれば嬉しいなと、我々産科医も期待する訳ですが、実は最近、ハネムーン妊娠、あるいはそれに近い妊娠の初診の人は、随分減ってしまったような気がします。しっかりした統計を採った訳ではありませんので印象ですが、昔は(20〜30年前頃)初めての妊娠の人の約半分弱がハネムーンかその直後の妊娠でした。減った理由はもう少し二人だけの生活をエンジョーイしたいと云うロマンチックなものから、共働きで子供を育てる余裕が無いと云う現実的なものまで様々だとは思いますが、その一方で性生活は婚前から日常的に為されており、新婚旅行が性生活のスタートでは無いので、避妊の処置もし易く、直ぐ妊娠に結びつかないのかも知れません。いずれにしてもハッキリしている事は、産科医院の来月の妊婦急増加は期待出来ないと云う事でしょう。ついでに言うと、最近の妊娠初診で目立つのは独身中の妊娠です。でも所謂“出来ちゃった婚”でその後結婚に発展するケースが多くなったようですので、それはそれで芽出度しですが・・・。そんなこんなで、ハネムーンベビーと云う言葉も最近はあまり使わなくなりましたが、ハネムーン関連の病気で、昔よくあったハネムーン膀胱炎と云う病気もほとんど死語になりました。この病気は新婚旅行中に花婿さんが今まで我慢していた分を一気に爆発させて朝な夕なと励むため、まだ慣れてない花嫁さんの外尿道口付近の粘膜が腫上がって赤くなり、尿をするとしみて激痛が走る接触性の膀胱炎の症状を起こすものです。たいていの人は膣粘膜も腫れてしまい、股を閉じて歩けなくなり蟹股のような独特の歩き方をするので、その姿勢も含めてハネムーン膀胱炎と診断されました。治療は細菌性の膀胱炎ではないので、抗生剤などの必要は無く、消炎塗布剤を塗りながら、2〜3日営みを休みなさいと云う位のものでした。痛くても一生懸命花婿に応えた花嫁さんの初々しさも手伝って痛い本人には申し訳ありませんが、なんとなく微笑ましい病気でした。しかし、今はそんな病気に滅多にお目にかかりません。多分皆さん婚前から充分経験を積んでいて、今更ハネムーン膀胱炎に罹らないのか、それともそれほど励まないのでしょうか。日常の延長のような旅行では新婚旅行の期待感や新鮮度が随分減ってつまらないですよね。
  一方、ジューンブライドとは限りませんが、梅雨の時期になると帯下(おりもの)が増えたり、外陰部が痒くなったり、所謂膣外陰炎の症状の人が増えます(これも統計を取っていませんので、私の推測ですが)。おそらく、梅雨の時期は湿気が多くて、湿度が高いのが膣外陰炎の増える原因だろうと思われます。その起炎菌のほとんどはカンジダ(真菌)、たまにトリコモナス(原虫)と云うばい菌でこれは性行為感染もしますが、空気中にも存在し、昔は銭湯などで、今でもプールや、スポーツジムなどの更衣室でうつる事もあります。一旦感染すれば夫婦だけでなくお風呂などで家族的にも感染しますので要注意です。又夫婦の一方だけ治療しても、行ったり来たりでなかなか治りませんので、夫婦両方の同時治療が必要なことが多いです。しかし、カンジダやトリコモナスは自然発病的で、ある程度仕方がありませんが、私が危惧しているのは、同じ膣炎の症状でも、クラミジア・トラコマチスとか、淋菌と云った性行為感染症(所謂性病)が増えていることです。これは季節とは関係ありません。行いの問題です。実はこのような性病が風俗営業の人達だけでなく一般の人にも増えてきたと云う事は4〜5年前から云われていましたが、星ヶ丘マタニティ病院では、罹患者はごく稀で私には増えた実感がありませんでした。“それは星マタが患者さんの層が良いからだ”と、ほかの医者から言われていて、成る程と納得もし、自慢でもありました。しかしここに来て特にクラミジアの感染者に時々遭遇します。星ヶ丘マタニティ病院の患者さんの層は変わらないと思いますので、所謂良い層の人達にまで、浸透してきたのは由々しき事だと心配しています。クラミジアは最初のうちは多少帯下が多い程度でほとんど無症状ですが、放っておくと子宮内膜炎となり、腹痛や発熱を伴い、もっと進むと、骨盤腹膜炎となって、命に関る重篤な症状を起こすことがあります。治ってもこれが原因で不妊症になる人も多く、厄介な病気です。新婚旅行から帰ってきて、ハネムーン膀胱炎なら微笑ましいが、クラミジア頚管炎では洒落にもなりません。でも現実にはそんな症例が幾つかあります。一方、未婚の人では、新しく就職したり、進学したりした人が、早くもセックスパートナーを得て、その結果感染するのかなと勘ぐったりもしています。これは新しいタイプの5月病と云うことでしょうか。本来は新しい環境に馴染めなくて、親元へ帰りたい、国へ帰りたいと云うホームシックが5月病だったのに・・・。
  いずれにしても、クラミジア感染症の人がごくごく普通の人にも増えて来て、当病院でも多くなりました。これも性の開放というか、性に対する考え方の変化の結果で、世の中の流れなのでしょうが、私などには決して良い変化とは思えません。もう少しお互いに相手を思いやり、そして自分も大事にしたいものです。私は今の性教育の方向性に付いて行けなくて、性教育の現場から撤退した産婦人科医ですので現在の性教育の主流からは外れていますし、今更とやかく言っても詮無いことですが、中学校や高校の性教育は避妊や性病に罹らないテクニックを指導するだけでなく、情操教育にも力を入れて欲しい、せめてセックスは遊びの道具ではなく、愛の最終的表現法として大切に扱いなさい位の事は指導して欲しいと改めて痛感しています。話がそれましたが、今年も大勢の幸せなジューンブライドが誕生しますよう心からお祈りしています。
 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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