第87回   風疹ワクチン公費助成で大騒動!!
2013年6月20日  
 
   去年9月に“愛する人を守るため、風疹ワクチンを接種しょう!”と題してこのコラムでも書きましたが、昨年関東で流行り始めた風疹が未だ衰えず、今年3月末の時点で既に昨年の報告数を超えました。国の調査では20〜40代の男性の15%が風疹の抗体を持っておらず、女性でも11%は感染予防に不十分な低抗体値だと云うことです。このため、先天性風疹症候群の罹患が心配されていましたが、昨年10月から現在までに全国で11例の報告があり、とうとう愛知県でも2例の先天性風疹症候群が発生しました。
 風疹を予防するには、風疹ワクチンの接種が最も有効ですが、風疹ワクチンは弱毒性ですので、安全を期して妊婦さんへの接種はしないことになっています。従って、妊婦さんは人混みを避けるなど消極的な予防しかできません。しかし、いくら本人が人込みを避けても家族が持ち込んでくる可能性があります。それを防ぐために家族が予防接種を受けることを推奨していますが、今までなかなか実行されていません。
 これを受けて、愛知県と名古屋市が来年3月31日までの時限措置として、風疹ワクチン予防接種を一部公費負担してくれることになりました。この助成で、風疹ワクチンを打ち渋っていた人が積極的に打ってくれれば先天性風疹症候群の予防が期待できますので、今回の行政の珍しく迅速な対応に喜んだのですが、その内容を見てあまりにも実情に沿わないので愕然としました。
 先ず、名古屋市は“妊娠を希望する女性”“妊娠を希望する女性のパートナー”“妊娠中の女性のパートナー”を対象に接種費用を全額助成すると発表しました。ここまでは良いのですが、もう 一つ条件があり“事前の抗体検査の結果で風疹に対する免疫が不十分と判断された方”となっています。確かに十分な抗体を持っている人にワクチンを打つ必要は無いので理論的には正しいですが、今回の先天性風疹症候群を防ぐための緊急避難措置としては二つの問題点があります。
一つは、抗体検査は助成しないと云うことです。従って全額自己負担で受けなければなりません。値段が5〜6000円掛かりますので、この時点で躊躇してしまって、結局ワクチン接種者が増えないのではないかと云う心配があります。二つ目は“妊娠を希望する女性”“妊娠を希望する女性のパートナー”は時間的余裕があるので、抗体検査の結果を待ってから打っても間に合いますが、“妊娠中の女性のパートナー”はモタモタしていると、風疹に罹ってしまって、奥さんにうつしてしまうかもしれません。しかも、先天性風疹症候群は妊娠20週位までに罹患しやすいので、一刻も早く対処すべきで、妊娠と分ったら抗体の有無など関係なくワクチンを打つべきなのです。実際、そのように決めている県もあります。念のために云っておくと、抗体のある人にワクチンを打っても抗体価が上がるだけで副作用の心配はありません。
 もう一つ付け加えれば、不十分とされる抗体価の値が、男性の場合一般的な値より1ランク低い所に設定しているのも気になります。
 うがった見方をすれば、名古屋市は“風疹ワクチン全額助成”などと格好良く世間受けするプレス発表をしましたが、一般の人には解りにくい内容でこれだけ縛りを掛けておけば、実際はそんなに接種者が増えなくて、世間受けの割には実行性が低く、予算的に抑えられると計算しているのではないかと勘ぐってしまいます。
 次に愛知県ですが、“妊娠を希望する女性”“妊娠を希望する女性のパートナー”を対象に接種費用を助成する。と云うことで“妊娠中の女性のパートナー”が対象から外されていました。しかも、助成額は各市町村の財政事情によって異なり、全額負担ではない可能性もあるとのことです。但し、名古屋市と違って、抗体の有無については問わない。と云うものでした。抗体の事前検査を省いたのは実行性が高まり歓迎されますが、最も対策が必要な“妊娠中の女性のパートナー”を対象から外したことには納得がいきません。
 県の見解としては、妊娠が解って、妊婦の抗体検査をして、その結果を見てそれから慌ててワクチンを打っても抗体が付くまでに更に2週間位かかるので、妊娠初期の重要な時期を過ぎてしまい、実質効果が低いと考えているようですが、だからこそ妊娠が解ったら直ぐ打って欲しいのです。本来、風疹が流行っている今、妊娠している女性を風疹から守る、如いては胎児が先天性風疹症候群に罹らないための緊急避難措置ですから、“妊娠中の女性のパートナー”が第一選択の対象者になるはずです。それを外してしまってはこの助成制度の目的が失われてしまいます。やはり予算的なことなど、行政の思惑があるのでしょうが、この内容では実情に合わず医療現場は混乱します。
 愛知県も名古屋市もいろいろ事情はあるのでしょうが、やるなら妊婦さんに最適な助成制度にしてくれないと、結局絵に描いた餅になりかねません。
 さて、現在私は愛知県産婦人科医会の会長職にあります。ですからこの問題を、ただ理事長コラムでぼやいているだけでは済まされません。早速、名古屋市長と愛知県知事に内容改善の要望書を提出し、合わせて担当部署に出向き善処するよう交渉にも臨みました。しかし、“議会で決定したことなので文言までは変えられない。運用に幅を持たせて善処する”と云う返事で、こちらの主張が通ったのか通らなかったのか、はっきりしない玉虫色の返答しか貰えず不満に思っていました。
 ところが、大方の予想とは裏腹に公費負担が効いたのか、この1週間で急にMRワクチン(風疹、麻疹混合ワクチンの名称で今回の接種ワクチン)の需要が増え、生産が追い付かなくなってしまいました。すると厚労省は急遽対象者を“妊娠中の女性のパートナー”及び“妊娠を希望する女性”に限定すると通達を出し直しました。結果的には我々の主張通りになったと云うことですが、ころころ変わる厚労省の通達に、我々医療者だけでは無く、地方の行政者も翻弄されてたまったものではありません。この結果一番迷惑するのは患者さんです。国を含めて、行政の皆さんご都合主義の通達を何とかしてください・・・。
 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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