第39回   更年期の訴えを不定愁訴と簡単に片付けてはいけない!
2009年6月19日  
 
   更年期世代の女性が色々な不調を訴えても、世間では「更年期障害の症状でしょう」と簡単に片付けられてしまうことが多いようです。確かに更年期の症状は、不定愁訴と云われるくらい、多種多様、千差万別ですから、大抵の訴えは更年期の症状の中に入ってしまいます。だから一般的にはほとんど問題無いと思いますが、なかには更年期障害以外の器質的な疾患で出る症状もありますので、産婦人科の医者としては注意が必要です。
 先日、以前更年期障害で2年位、ホルモン補充療法をしていた患者さんが久しぶりに来院されて、「先生、ホルモン補充療法を止めて、1年半位経ちますが、最近、どうも、調子が良くなくて、又更年期が戻ってきたみたい。ホルモン補充療法を再開しようかしら」とおっしゃる。「どんな症状が出ていますか?」とお訊ねしたら、「以前みたいな“めまい”“フラツキ”“動悸”。でも今は“のぼせ”はありません」との事でした。彼女の顔色が土色なのも気になって、「そうですか。“動悸”もしますか。チョット胸を見せて下さい」と云って、心臓の聴診をしました。脈は少し除脈で、不整脈、欠脈もありましたので、心電図を取ってみると、房室ブロックと思われる所見でした。早速循環器の専門科に紹介して、適切な治療を受けていただき、お元気になられたようです。患者さんを専門病院等に紹介した場合、治療経過なり、結果は紹介先の主治医が報告してくれますので、我々は患者さんの転帰については知っています。結果が良ければそれは良かったと安心しますが、もし患者さんからも「お陰で元気になりました」と云うような連絡が入れば、医者冥利につきると云うか、もっと嬉しい気分になります・・・。もっとも、家庭医的な診療所なら、患者さんとの親密なコミュニケーションが構築されていて、そんなやり取りがごく普通になされている事でしょう。当院が小規模ながら複数科のある病院に発展した為に、患者さんとの家庭医的親密感が無くなってしまったと云う事でしたら、反省して改善しなければいけないと思っています。
 ついでに、余談ですが、最近の産婦人科では滅多に聴診する機会も無くなりましたので、自分の、所謂、マイ聴診器を持っている産婦人科医はほとんど居なくなりました。必要な時はナースステーションにある共用の聴診器で間に合わせている様です。しかし私はマイ聴診器を持っています。昔は医者になったお祝いに必ず誰かが聴診器を贈ってくれました。その内、経験が増してくると、聴診器にもこだわりが出て、なかにはマニアックな、少し高級な物に買い換えて秘かに悦に入っている人もいました。私もその頃に買ったリットマン製のチョットお洒落な聴診器を今でも白衣のポケットに忍ばせて大事に使っています。只こんなこだわりが私も昔風の医者かなと思い苦笑しています。
 本題に戻ります。更年期症状の不定愁訴は、“のぼせ”“発汗”“寒気”“動悸”“息苦しさ”“頭痛”“肩こり”“めまい”などの血管運動神経症状と、“情緒不安定”“イライラ”“抑うつ気分”“不安感”などの精神神経症状が主ですが、その他に運動器症状として、“腰痛”“手のこわばり”“しびれ”“関節痛”など、消化器症状として、“食欲不振”“便秘”“下痢”。皮膚粘膜症状として、“乾燥感”“かゆみ”。泌尿器生殖器症状として、“排尿障害”“頻尿”“性交痛”などと多種多様です。これらの多彩な訴えの中で、鑑別診断に気を付けなければならない症状を上げてみますと、まず“めまい”があります。“めまい”にも色々あって、中枢性のめまいの場合、脳幹、小脳の腫瘍のような疾患が考えられます。この場合、“フラツキ”や“頭痛”を伴う事が間々あります。末梢性ではメニエール病や突発性難聴を原因とするものがほとんどですが、“耳鳴り”“難聴”も出てきます。この他案外多いのが頚性めまい、頚椎の加齢変性により起こる病気で、首の細く頚、肩の筋肉が脆弱な女性に起き易いと云われています。一方低血圧、高血圧も“めまい”の原因になります。随伴して、“立ちくらみ”“肩こり”“頭重感”など不定愁訴的症状を訴えます。“頭痛”については「いつもの頭痛だ」と見過ごしがちですが慢性頭痛の患者さんが脳腫瘍、くも膜下出血など重篤な疾患を発生する事もありますので、頭部CT,MRIなどの検査も考慮する必要があります。 尚“片頭痛”は卵胞ホルモンの変動によるとされており、閉経後は発作が減る傾向にあります。甲状腺機能低下症では“傾眠傾向”“便秘”“むくみ”などが見られ、“動悸”“フラツキ”では心疾患、高血圧などを考えなければなりません。“腰痛”があれば腰椎疾患、骨粗しょう症などの可能性もあります。難しいのが、“イライラ”“情緒不安定”“抑うつ気分”“意欲低下”などの精神神経症状がある場合、うつ病、統合失調症など本物の精神科疾患との鑑別です。以上色々羅列しましたが、更年期障害の診断を正しく下すには、器質的疾患を除外する必要があります。しかしながら、このような疾患は比較的少なくて、不定愁訴のほとんどは所謂更年期障害による症状の訳ですから、基本的には更年期障害の治療が第一となります。その治療法としては、やはりホルモン補充療法が一番良い方法だと考えています。
 もう一つ余談と云うか、追加ですが、『OCからHRTへ』と云う大変斬新な発想の論文を読んだので、そのサマリーをお話します。「経口避妊薬(OC)は確実な避妊効果と子宮内膜症、月経困難症、過多月経、骨粗しょう症の改善などのさまざまな副効用により、女性の健康管理には欠かせないものとなっており、しかも若年女性から40代以降までカバーする領域の広い治療薬です。このOCから閉経期のHRT(ホルモン補充療法)にスムーズに移行する事によって、更年期世代の女性のホルモン変動による体調変化を最小限に抑え、更年期時期のQOLを高めましょう」と云う主旨です。旨く移行すれば更年期障害を経験せずに老年期に入れる事になります。
 そうなれば全女性にとってラッキー!目出度し!めでたしの話ですね。
 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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