第38回   「マタニティの集い」とお産難民
2009年5月20日  
 
   もう1ヶ月位前になりますが、4月25日、土曜日の午後に「マタニティの集い 2009」と云う催しが松坂屋ホールで行われました。この会は岩瀬カエ子さんと云う女性が中心となってボランティアの団体を作り、妊娠中に最も大切な心と体のリラックスに一役買おうと、妊婦さんとその家族(主にご主人)を対象に、毎年松坂屋ホールで楽しい音楽や講演会を開いているものですが、立派なものでもう20年以上続いています。愛知県産婦人科医会も後援していますので、私も以前から関わっていましたが、その時々の妊娠さんに関する問題を取り上げ、それをテーマに開催する中々精力的で楽しい会です。今年は私に「安心して赤ちゃんが生めますように」と云う演題で30分位話すようにと依頼があり、内容は今話題の産科崩壊とか、お産難民とか、社会的な話をして欲しいと云うことでした。せっかく妊娠してそれこそ心と体のリラックスをしようと思って来てくれた人に不安をつのらす様な話でいいのかなと思いましたが、それが妊婦さんの今一番の関心事だと云われて承知しました。しかし、どうせ話すなら暗い話より楽しい話をしたいなと思いながら原稿を考えていましたので、なかなか上手くまとまらないままに当日が来てしまいました。当日は雨でしたが、会場は結構満員の盛況で、若い熱気に溢れていました。この雰囲気を壊してはいけないと思いましたが、内容が内容ですので咄嗟に当意即妙と云う訳にはいきませんでした。どんな話をしたか内容を要約してみますと、「産科の社会的現状についてお話しするなら、残念な事ですが、今の日本では先ず産む所を確保してくださいと云う所から、話を始めなければなりません。『アーダ、コーダと贅沢を云っていると産む所がなくなってお産難民になってしまいますよ』と云うことです。こんな状況になったのは、一にも二にも産科医の激減が原因です。」と云う事で、産科医の激減の原因を産科医の過重労働、訴訟の多さ、新研修医制度の欠陥、女性医師問題、既存産科医の高齢化と後継者の不足などについて説明しました。これらの詳細について今回は省略しますが、只以下の話の時は皆さん真剣に聞いてくれていたようです。それは「何時ごろからか日本ではお産神話のようなものが出来て、お産は安全なものと一般の人は考えるようになりましたが、しかし現実には安全神話は少し早いようで、産科学はまだ完全無欠ではありません。どんなに手を尽くしても不幸な転帰をたどる例が少数ですがまだあります。一方最近の日本人女性の体形は見た目にはスタイルが良く美しくなりましたが、お尻は小さく、お産には不向きな体形に変化したとさえ云われています。ですから、お産は楽になったどころか、逆に難産が増えているのです。それに加えて出産年齢の高齢化が難産率の増加に益々拍車を掛けています。分娩の進行が長引き、その間に危険な状態になったりして、本人も辛いでしょうが、医者も緊張の連続と云った分娩も珍しく無く、帝王切開の比率も当院でも15%を超え、周産期母子センター病院では30%近くにまで跳ね上がっています。決してお産は安全、安易なものでは無く、女性にとっては一生に二度か三度の大げさに云えば命を賭けた大事業だと私は思っています。」と云うくだりです。しかし暗い話ばかりでもいけませんので、「愛知県の産科救急システムは比較的整っています。いざという時には周産期母子医療センターと緊密に連絡が取れ、より安全な管理を受けられるよう手配できますので安心してください。しかし、それには先ず1次病院を確保する事が大事です。間違っても未受診・飛び込み分娩は避けましょう。」また、「日頃少子化対策を国の最重要課題だと宣伝している厚労省が、ここに来て改善策を少しずつ示し、『産科医療への経済的支援』が国策として考慮されるようになりました。」と云う事で、妊婦健康診査費用公費負担の拡充がこの4月から実施されている事、出産一時金が今年10月から更に増額されて42万円になる事、但しこの増額は1年半の暫定措置という不思議な法律である事、それから患者さんだけでなく、我々産科施設にとってもありがたい制度ですが、産科医療保障制度が今年の1月から発足した事などを話しました。最後に「今日は産科の現状の厳しさをお話しましたが、とに角かかり付けの1次病院を確保しておけば大丈夫ですので、安心して分娩に望んでください。」と結びましたが、心なしか拍手も少なく感じました。笑いを取る部分も5箇所位作ってあったのですが、いつもの様な間が取れなかったのか、反応が今一で、今日の講演はちぐはぐでした。やっぱりもうすぐ実現しそうな完全無痛分娩の話などを空想を織り交ぜながら多少無責任になっても夢物語のようにしたらその方が面白かっただろうなとか思い憮然となりました。私の講演が最初でしたので、出だしはやや重めでスタートしましたが、その後、マタニティビクス&イメジェリーでは、当院からも5月中旬予定日のSさんを初め5人の妊婦さんが参加して、当院のクラスも担当してくれているゴールド・インストラクターの松田梅奈枝先生の指導のもと、皆おそろいのレオタードを着て溌剌と踊り、お客さんも参加して盛り上がりました。次はマタニティヨーガ&ベビーヨーガのデモンストレーションがあり、こちらも楽しく、続いて愛知県医師会交響楽団(意外に上手い)の妊婦さん向けの演奏で心地良い気分になり、最後は抽選会で大いに盛り上がりました。参加者は後半の盛り上がりですっかり楽しい気分で帰られた事でしょうが、私一人この日の天気のような重い気分を最後まで引きずってしまいました。(次は上手く話すぞ!)
 さて、話は変わりますが、最近新型インフルエンザで、町は話題沸騰、戦々恐々です。実際こちらの方が私の講演の内容よりお産難民の危機は重大です。もし新型インフルエンザのマニュアルがそのまま適応されれば、当院で1例でも新型インフルエンザの妊婦さんが入院すると、病棟閉鎖になってしまいます。そうすると当院予約の他の妊婦さんのお産が全て出来なくなります。当然そんな頃は感染指定病院の産科は新型インフルエンザの患者で溢れている事でしょうから、新型インフルエンザに罹っていない妊婦さんのお産場所が無くなってしまいます。これは現実問題として大変な事です。それほど病原性は強くないようですので、政府は早く季節インフルエンザのマニュアルに切り替えてもらいたいものです。さもないと近日中に本当にお産難民が出てしまいます。アー、くわばら、くわばら!
 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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