第88回   今度は子宮頸がん予防(HPV)ワクチン騒動!
2013年7月19日  
 
 

 先月、風疹ワクチン騒動について、お話ししたばかりですが、今月は子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの厚労省通達についてお話ししなければなりません。毎月毎月の現場泣かせの通達に我々現場の医療者と患者さんは混乱してしまいます。
 皆さんも、テレビや新聞の報道でご存じだと思いますが、“HPVワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛が接種後に特異的に見られた”ことから、マスメディアがこの副反応を大々的に捉え、このまま接種を続けて良いかのかと懐疑的な論調で報じました。
 厚労省は予防接種・ワクチン分科会等の審議会を開催し、その結果“副反応の発生頻度などが明らかになるまで、定期接種を積極的に勧奨すべきではない”と云う難しい通達を出しました。要するに積極的には勧めないが、定期接種を中止するものでは無いから、打ちたい人は打ってもかまいませんよ。簡単に云えば、自己責任で打ちなさいと云うことです。しかし、患者さんは自分ではなかなか判断出来ませんので、現場の医療者に相談することになります。結局、何かあれば我々医者が責任を負わされることになり、何時もの厚労省の責任転嫁の姑息な手段ですが、今回はその上、勧めないが定期接種は続けると云うことですから国として、止めたがっているのか、本当は打って欲しいのかも解りません。
 子宮頸がんは風疹と違って、特に流行が有る訳ではありませんので、初めての人には少し待ちますかと云うことも出来ますが、困ったことにこのワクチンは3回打って初めて持続的効果が期待できるものですから、2回目以降の現在接種途中の人をどちらに誘導するのか大変難しい問題を抱えています。
 ここで少し子宮頸がん予防ワクチンについて説明します。以前にもこのコラムで書きましたが(第46回 待望! HPVワクチン発売開始!)、初めて読む人のために少しおさらいをしておきましょう。
 先ず、子宮頸がんの原因は発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によると云うことが1983年に発見されました。このウイルスは性交経験のある女性では誰でも感染しうる、ごくありふれたウイルスでほとんどの人が一度は感染しますが、大部分は自己免疫力によって1年から2年以内に自然に排除されます。しかし約10%の人に感染が長期化し、持続感染を起こして子宮頚部の細胞に異形成を生じることがあります。その多くはやがてウイルスが消滅し異形成も治癒しますが、ごく1部が10年位の歳月を経て異形成から子宮頸がんに進行します。だから、このHPVウイルスの感染を防げば子宮頸がんに罹らないと云うことになります。それが今、HPVワクチンが完成したことによって現実のものとなりました。もっとも現在のHPVワクチンはすべてのHPVをカバーしてはいませんので、予防効果は100%ではありませんが、それでも70%以上の効果が期待できると云われています。一方、1回の接種では持続的な抗体が付かないので、半年の間に3回の接種が必要で、しかも価格も高いのがネックになっていました。しかし、欧米先進国では既に数年前から予防効果が確実なセキュシャル・デビュー前の女性を対象に定期接種を実施していました。日本でもようやく去年の4月から全国的に小学6年から高校1年の女子を対象に公費負担で定期接種をすることになりました。そのため接種者が急増したことも今回の問題の一因になっていると思います。
 一方、性交経験のある人でも、新たな感染に対する効果はありますので接種する価値はあります。ただ、あくまでHPV感染を予防するものであって、感染者の予後を左右するものではありませんので、異形成や上皮内がんに対する治療効果はありません。この点は誤解しないでください。もう一つ、注意して欲しいのは、このワクチンは子宮頸がんを100%予防しませんし、又、接種以前の感染に関する治療効果もありませんので、子宮頸がん細胞診検査は定期的に受けてください。 
 話を戻して、今回の厚労省通達について、もう少し検討してみます。
 先ずこのHPVワクチンは他のワクチンに比べて副反応が多いかと云う点については、現在までの接種数328万に対し副反応者数1968例、0.06%、この内重篤な物は0.0013%で他のワクチンとの有意差は無いとの報告がありました。又外国での頻度はどうか、外国と比べて日本は確率が高いのかと云う疑問に対しても大差は無いようです。
 それでは子宮頸がんの死者数と重篤な副反応の発病者との比較はどうか?。これについては、毎年約9000人が子宮頸がんに罹りその内2700人が死亡します(厚労省調べ)。一方、重篤な副反応発病者は70人強ですから明らかに子宮頸がん死亡者の方が多いので疫学的に観ればワクチン接種は有効であることになります。欧米先進国でも公衆衛生学的見地から、子宮頸がん撲滅のためにHPVワクチンは推奨すべしとしています。一方、重篤な副反応者には十分な国家補償をしています。
 ところが日本では人の命は何よりも重い。一人でも異常者が出れば、強制的な接種は中止すべきと云う国民的風土があります。日本人には集団の疫学的効果より、個人を大事にする考え方が優先しますので、厚労省も今回の苦肉の通達になったのだろうと思います。
 このように日本は全ての予防接種行政が徹底せず、先進国の中では断トツの予防接種後進国となり、世界でも後進国並みの扱いを受けて揶揄されています。ただ、日本脳炎ワクチンの時の苦い経験もあり、多くの医学者も理論的には是非打つべしと提言していますし、厚労省も辛いところで、今回のような矛盾した通達になったのだと思います。
 私も日本人で日本人的な考えが強い男ですので、医学的には打つべきと考えますが、全体のために少数の犠牲は仕方ないとまでは云い切れません。
 しかし、“もし先生なら、家族には打ちますか?”と質問されたら、このワクチンに関しては“私の娘や、孫にも打たせます”と答えます。

 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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