第50回   摂食障害と無月経
2010年5月20日  
 
 

 毎年、この時期になると“月経異常と食欲不振”の訴えで若い患者さんが来院されます。しかも大抵精神的な不安を伴っています。この人たちの多くは、所謂五月病と云われる病気で、夢と希望に満ち、新しい環境に胸躍らせて入学した大学生、あるいは就職した新入社員が環境の変化に付いて行けずストレスとなって体や心に変調を来すものです。この5月病については以前に当コラムでお話した事がありますので覚えていらっしゃる方も居られるかと思います。しかしこの時期、5月病とは別に若い思春期の女性の同じ様な訴えの受診が増えます。それは摂食障害の女性(子供と云ったほうがいいかな?)です。この時期は昔から木の芽時と云って、新しい芽が息吹く時、人間も精神的に変化を来して不安定になり易い時期だと云われていますが、それにしても最近この種の病気が多くなった様な気がします(全くの私の推測で科学的データはありませんが・・・)。

  この患者さん達は14〜5才から19才位で、皆一見して極端な痩身です。親と一緒に受診する事が多いのですが、何故かギクシャクしていて、特にお子さんの機嫌が悪く無愛想で“生理が半年来ない。元気が無くなった”と訴えます。しかし“痩せた、食事を食べない”と云う話は親が遠慮がちに云う程度です。おそらく食事については親子で散々葛藤が有って、それでもお互いに理解が得られず平行線を辿ったままで、でも無月経に関しては本人も心配なのでそれを婦人科で診てもらうと云う事で妥協して嫌々来院されたのだろうと推測がつきます。だから、我々もその辺は充分配慮に入れて対応します。

 そもそも、摂食障害の患者さんの一番の治療は体重を標準まで戻す事です。もし30kgを割る様な体重ならば命に関わります。その治療の専門科は心療内科か精神科です。どちらかと云えば、無月経は慌てて治療する項目ではありません。極端な事を云えば、体重が戻れば月経も自然に戻る事がほとんどです。でも彼女の一番の心配事は無月経で、親もきっと一生懸命説得してやっと婦人科へつれて来た訳ですから、我々はこの機会を上手に生かして実りある治療をしてあげなくてはなりません。だから”こんな病気は食べれば治る“とか”心療内科へ行きなさい“とか、冷たくあしらったりしないで、”よく来た。先ず無月経を治そう“と産婦人科でも良いから、先ず医者に掛かる気にさせる事から始めます。その内生理を来させる為には、あるいは将来妊娠する為には体重を戻すことが必要だと自覚させ、本人の治療への動機付けを促します。その上で心療内科を受診させる事にします。

 ここで、思春期の摂食障害について少し説明します。摂食障害は近年極めて増加しておりこれは世界的な傾向だと云われています。思春期の女子に好発し、神経性食欲不振症と精神性過食症に大別されますが、今回は婦人科的に受診の多い神経性食欲不振症について述べます。病因は単一ではなく種々の要因が複雑に関連する多元的発症モデルが提唱されています。その要因の一つに痩せを礼賛する社会的風潮があり、細くて美しい事に価値が置かれる現代の状況があります。一方“手のかからない良い子”のことが多いが、他人の評価に敏感で、完全主義的傾向が強く、強迫的思考に縛られています。

 余談ですが、摂食障害に限らず、5月病になる人も、マタニティ・ブルーや、更年期障害の症状の重い人も、この種の精神的病(やまい)に罹る人は、大抵以前は几帳面で真面目だと評判の良い人が多いのが特徴です。逆に少しずぼらで、いい加減の人の方が罹りにくい様ですから、日頃ずぼらと云われて揶揄されても、長い目で見ればその方が他人様に迷惑を掛けなくて済むので良いでしょうと、開き直って気にしないことですね・・・。

 その他、乳幼児期の母親との情緒的交流の障害、父性の希薄さなどが挙げられています。又、視床下部〜下垂体系の神経内分泌学的異常も指摘されています。症状としては、身体的には先ずるい痩(やせ)、低体温、低血圧、貧血、めまい、手足の黄色化、成長障害などがあり、そして無月経もほぼ必発です。精神症状は痩せ願望、肥満恐怖、ボディイメージの障害(痩せている事が認識できない)、食行動異常(拒食、隠れ食い、過食)、又、気分障害、不安障害。アルコール依存、薬物依存などの依存症を認めることが多いとされています。治療としては、早期の介入が予後を決定すると云われていますが、日本の現状では無月経をきっかけに産婦人科に受診することが多いので、我々産婦人科医の初期対応が大事になります。なぜ無月経が起こっているか、痩せにより身体にどのような影響があるか、痩せが進めば命の危険もある事などを説明し、治療への動機付けをする事が重要です。家族にも治療に参加してもらう事が有効ですが、ここで注意する事は、決して”食べなさい”と強制的にならず、一歩下がって見守る事。逆に“母親が過保護すぎた”などと原因探しをしても逆効果だと云われています。専門科による治療は、身体、精神両面からのアプローチが必要ですが、体重が極端に少ない場合は体重増加が第一で、栄養療法が優先されます。無月経の治療は体重が標準体重の70%を超えてから開始する位が良く、先ずは黄体ホルモン剤で消退出血を起こさせますが、標準体重の90%まで体重が戻れば約86%の人が6ヶ月以内に自然月経が回復すると云われています。挙児希望のある人には排卵誘発を行いますが、体重が標準体重の80%以上になってからが望ましいとされています。

 今、摂食障害患者の妊娠出産の際の合併症が注目されています。先ず流早産率が高い事、低体重児が多い事、その他、帝王切開率が高い事、産後うつ病を発症しやすいなどが報告されていますが、妊娠中でも体重増加を極端に警戒して体重を増やさない事も原因になっています。もう一つこの疾患の重要な合併症でしかも後遺症として問題になるのが骨粗鬆症です。一般に思春期の時期に骨密度は著明に増加しますが、本症では骨密度が健常者に比べて有意に減少し、最大骨量に影響を与える事が推測され、後の骨粗鬆症の原因になります。

 もし皆さんの周りに摂食障害と思われる思春期の女性がいたら早めに病院へ行く様に勧めてください。重症になると命に関わります。

 手前味噌ですが、当院には心療内科と摂食障害専門の小児科がありますので、婦人科と連携して良い治療が出来ています。

 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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