第45回   出産育児一時金の直接支払制度スタート
2009年12月21日  
 
 

 今年も愈々押し迫り、また気ぜわしい師走がやって来ました。皆さんも今年中に処理しておかなければならない事がお有りで何かとお忙しい事と思いますが、病院にも年内に解決したい事が色々あります。特に産科は、暮れからお正月近辺の分娩予定日の妊婦さんをどのように診ていくか、と云う事に頭を悩まします。皆さん順調に予定日前後で生まれてくれれば問題ないのですが、そうは旨くはいかなくて予定日超過になる人もいます。その人達を正月休み中に把握できなくて異常を起こしてしまっては大変ですので、一人ひとり「貴女はこの日までに生まれなかったら何時(いつ)いらっしゃい」とか、個人的に指示していますが、何種類かの状況を想定しなければならないのでなかなか大変です。しかし、これは例年の事である程度慣れていますが、今年は想定外の事態が産科中心の病医院に起き大きな打撃を与えました。しかも、この金融危機(?)は年内には解決しそうもありません。それは今年10月からスタートした出産育児一時金の直接支払制度で起こりました。この制度を大まかに説明しますと、産婦さんの分娩費の一部を直接保険者が病医院に支払う仕組みとなり、産婦さんは差額を用意するのみで良いと云うものです。しかも産婦さんは同意書にサインするだけで手続き完了と簡単です。その上、今回一時金が38万円から42万円に増額されました。今までも出産一時金制度はありましたが、立替制度で患者さんは一旦病院に分娩費用を全額支払って、後から保険者に出産に関する書類を提出して一時金を受け取ると云う方法でしたので、患者さんは分娩費用を用意し、その後の換金手続きも煩雑でした。ですから、この制度は患者さんに取っては大変良い制度で、分娩に掛かる費用の心配も減りますし、手続きも簡単になりました。これが分娩増加に繋がれば少子化対策にもなりますし、厚労省としては、国民、マスコミの支持を得る良策として何が何でもこの制度を早くスタートさせたかったのでしょう。医療側の懸念をほとんど無視して見切り発車となりました。医療側にとって何が困るかと云うと、当面の問題としては先ず事務量の増加。今までは自費診療の請求書ですから、簡単で済んでいた物がまるで健康保険のレセプトの様な詳細な請求書を作り、保険者に請求しなければならなくなりました。産科医療補償制度の事務処理、続いて妊婦健診公費負担事務と、この所矢継ぎ早に増えた事務量にやっと慣れたと思ったら、又この制度の追加と最近の産婦人科事務員は本当に可哀想です。それも事務員数の少ない零細病医院に、より負担が掛かり打撃が大きいと思います。しかもその結果、入金が健康保険と同じように2ヶ月遅れになってしまいます。ここが最も医療側にとって打撃的な事で、特に当院をはじめ産科収入が中心の中小病医院では二ヶ月は完全に主たる収入が途絶え、資金計画が完全に崩壊してしまいました。融資といっても、この不況な時代ではなかなか思うようにいきませんし、たとえ融資できてもその返済は後々まで残ります。しかも12月はボーナス月で時期的にも大変です。色々重なって多くの零細産科医院が閉院するのでは無いかと言われていましたが、今のところそんな話も聞かないので少しホッとしています。この上お産する所が減っては返って妊婦さんには不利益ですし、一方残った施設は益々過重労働になり疲弊してしまいます。せめてもう少し医療側の負担を減らすような制度整備をしてからスタートして欲しかったと思いますが、でもこの制度は患者さんに取っては大変便利で有り難い制度であり、少子化対策の一環としても有効だろうと思われますのでマスコミ好みで、あまり反対ばかりすると医者のエゴだと逆に叩かれそうで、むげに反対も出来ない我々に取っては厄介な制度です。間際になって、特例として10月から実施困難な医療機関は、6ヶ月間の制度猶予措置も認められる事になりましたが、厚労省はどうせ条件付猶予を認めるなら、全面的に延期して運用の改善を図ってからにしてくれたら良かったと思います。延期措置を認められても、現実には患者さんの希望が強ければ新制度を採用せざるを得ません。「当院は当分の間、直接支払制度は取り扱いませんので、どうしても直接支払制度を使いたい人は他所(よそ)でお産してください」とまでは強気に云えません。当院の例を挙げても、先ず患者さんに事情を説明して協力を求めますが、「自分だけでは結論が出せないので、主人と相談してから返事をします」と伸ばされて、結局、後日「やはり直接支払制度を使わせてもらいます」と云うことになります。これでは事務員の労ばかり多くして、ほとんど成果があがりませんので、モチベーションも下がります。その結果10月、11月の分娩中、約8割が直接支払制度になり、云われていた収入減が現実のものとなりました。蛇足ですが、当院も融資を受けました。何とか融資は受けられたのですが、その時12月のボーナスは考慮に入れましたが、11月末の予定納税の事は全く頭に無かったので、予算に入れてなくてすっかり資金繰りが狂ってしまい、このまま年が越せるかどうか心配です・・・。
 勘ぐれば、厚労省が元々狙っている分娩施設の集約化、裏返せば零細病医院潰しの画策かと疑いたくもなる様な今回の運用措置です。又将来の分娩費の現物給付化(分娩費の健康保険化)の布石としての第一歩にするのではないかと不安を感じます。特に過誤調整に関する同意書に至っては普通の保険診療の過誤調整と同じ事が行われる訳ですので、正に現物給付の前触れのようで不愉快です。
 年の瀬でつい愚痴っぽく、弱音を吐いてしまいました・・・。
患者さんには朗報の出産育児一時金直接支払制度についてケチを付けて申し訳ありませんが、厚労省のやる事はいつも高飛車で医者泣かせです。とても所轄官庁とは思えません。それに対する日本医師会や産婦人科医会の対応も情けないのですが、我々末端の医師は直接ぶつける所がありませんので、こんな処で八つ当たりしています。これも情けないですね。反省!
 何はともあれ来年は良い年になります様に!

 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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