2023年11月20日
第212回
医師の働き方改革への疑問
 今年の11月は観測史上最高の高温続きで、異常気象だとメディアが騒いでいましたが、寒がりの私にとって、このくらいの気温は過ごし易い丁度良い気候だと喜んでいました。
 ところが1週間前位から急に寒くなって一気に冬が近付いた感があります。身体がついて行かず体調を崩しそうですので、皆さま、お気を付けください。
 遅れていた紅葉もすっかり色づき、秋の味覚の松茸やサンマも出回ってきました。越前蟹の水揚げも大漁だったようです。やっと何時もの秋が来たようです。

 今、医療界では医師の働き方改革が話題になっています。大雑把に言えば、医師の勤務時間を減らして、過重労働を制限し、過労死や自死を防ごうと言うものです。
 主旨は医者にとって大変有難いもので賛同しますが、内容を実現しようと思うと厳しすぎて大変です。総論賛成各論反対(無理)みたいなことになっています。
 特に当院のような分娩取り扱い病院では、必ず緊急事態が発生しますので、それに対応する体制を整えておかねばなりません。この働き方改革に沿って、緊急体制を整えるとなると今よりも相当余分な医師確保が必要になります。常勤勤務医だけでは無理ですので、大学などから応援の代務医師を頼まなくてはなりません。勿論宿日直医師も必要ですので、宿日直が勤務時間から外れる許可を取ることから始めました。これも結構めんどくさい手続きが必要でした。
 この問題は病院側だけでは無く、代務に来てくれる先生方にも総勤務時間が絡んできますので大変です。今までのように気楽に頼めません。代務に来てそのまま当直で良いのかどうか、宿日直許可があるので良いと思いますが、連続勤務の関係で、代務日と当直日を変えなければならないようだと増々複雑になります。運用が始まってから疑義が出ないか心配です。
 一方で、産科医不足の現状で来てくれるかどうかも心配ですが、来てくれたとしても病院側は経営的に相当負担が掛かります。
 保険点数は上がりませんし、「分娩費用のみえる化」とか言って厚労省は分娩費抑制に傾いています。少子化対策は国の最大事案ですので、分娩費を抑えて産み易くしたいのでしょうが、改革をするのならそれに対する経済的裏付けもして、分娩施設側のことも考えてくれないと、これでは経営が成り立たないので閉鎖する施設も出て来る可能性があります。
 下手をすると、原因は違いますが何年か前の奈良県のようにお産難民が出てしまいます。そうなれば少子化対策どころか、妊産婦さんの安心・安全な医療が担保できない事態になりかねません。
 反面、働き方改革によって院長(管理者)は今まで以上に働くことになりそうです。例えば、当直の先生が朝7時に当院を出て勤務先に向かうとします。9時勤務開始の当院常勤医はその頃出勤します。するとその間2時間は医師不在になります。そこを埋めるのは勤務時間制限から外れた管理者たる院長しかいません。院長は逆に超過勤務やむ無しと言うことでしょうか。これは肉体的にも精神的にも相当ストレスになります。
 行政としては医師の過重労働だけを取り上げるのではなく、産科医の育成や、患者さんに対する医療面の充実なども考慮した働き方改革を考えてもらいたいものです。