第48回   陣痛は自制出来る最大の痛み!?
2010年3月19日  
 
   先日、ロータリーの仲間との飲み会の時に、若い会員が、と云っても40は超えていますが、奥さんのお産に立ち会った時の話をし出して、「とに角大変だった。もう二度と付き合いたくは無い」と本音を吐いていました。「それにしても陣痛の痛みは尋常では無いね。よくあの苦しみに耐えられると思うよ。何処にあの忍耐力と持久力があるのだろう。女性は子供を生むための体に出来ているからかなあ。子孫を残すと云う本能的な使命感かなあ。私は痛くも無いのに長時間一緒にいただけでヘトヘトに疲れてしまった。(どうやら奥さんの分娩は20時間位掛かったらしい)何時もそんな人ばかり診ている産婦人科のDrや助産師さんは大変ですね」。と話がこちらに向いてきました。“その通り、やっと我々の苦労に眼を向けてくれる理解者が一人増えたか”。立会い分娩も少しは役に立つ事もあるなと思いましたが、正直云って我々医療側に取っては、立会い分娩はあまり歓迎すべき形態ではありません。特にご主人が付き添うと、奥さんの陣痛の苦しみに先にご主人が耐えかねて、「こんなに痛がっているのにほっておいて大丈夫か。何とかしろ!」と言い出します。特に異常も無く普通なので何ともしないでいると怒り出す人もいる始末です。奥さんは耐えて頑張っているのに、旦那がこの苦痛(どちらかと云えば旦那に取っては恐怖かな)から早く解放されたくて騒ぎ出す様では“百害あって一利なし”と云う事になります。特に最後の集中が必要な分娩室でのご主人の立会いは、脳貧血を起こして倒れる人もいたりして(男は血に弱い人が多い)妊婦以外に余分な神経を使わなくてはならないので、その分集中力が欠けて嫌なものです。一方、奥さんの側からすれば、分娩中ずっとご主人に付き添ってもらって、励ましてもらい、たまには腰でも摩ってもらえれば安心できるし、その優しさが嬉しいと云う事でしょうが、しかし、無意識の内にお産の辛さ、生みの苦しみを見せる事によって、旦那に貸しを作ろうと云う女性の本音が見え隠れしているように思うのは私のうがち過ぎでしょうか・・・。それに比べて、今の若い男供は女性の本音も知らずに優しさを示そうと立ち会って酷い目に会っている様です。背中を摩りながら、「頑張れ!出来れば俺が代わってやりたい!」とか云いつつも、たぶん皆内心では“男に生れて良かった”とつくづく思っていた事でしょう。
 話が主題からどんどん離れてしまいました(私の悪い癖ですね)。実は陣痛は果たしてどれ位の痛みなのか?と云うのがその夜の主題だったのです。そもそも陣痛とは何ぞや!と云う事ですが、それは規則的な子宮収縮の痛みの事です。ここで陣痛と分娩についてのおさらいです。分娩は規則的な陣痛の開始から、子宮口が全開大するまでの第1期、子宮口が全開大してから児の娩出までの第2期、そして胎盤が出るまでの第3期に分かれています。第1期の規則的な陣痛の開始とは10分間隔、又は1時間に6回以上の規則的な子宮収縮(陣痛)の開始を云うと定義されています。それ以前の不規則であまり痛くない陣痛を前陣痛と云いますが、やがて10分置位の規則性が出て来ると、これが分娩陣痛で分娩第1期の始まりです。初めは発作時間も短く、痛みも軽めですが、段々間隔が短くなって、5分置、3分置となり、発作も強くなって40秒から1分くらい続きます。更に俗に1分、1分と云う発作1分、間欠1分の状態になってくると、痛みの強さも最強に増して、しかも次から次へと発作が襲ってくるので妊婦さんに取っては一番辛い時期です。この間に子宮口が少しずつ開いていく訳ですが、この状態は1時間や2時間では収まらず、初産の人では短い人でも10時間位、経産の人も約半分の5時間位は続きます。長い人だと10何時間も続く事がありますので、まるで終りなき拷問の様なものです。一般的に痛みに対しては歯を食いしばって全身に力を入れて耐えるのが普通の耐え方ですが、分娩第1期の頃はまだ子宮口が全開大していませんので、幾ら気張っても児頭は進みません。それどころか圧迫を受けて胎児の状態が悪くなってしまいますので“力を入れないで下さい。力を抜いて痛みを逃してください”と指導していますが、これは生理的な方法ではありませんので、なかなか旨くいきません。ここで役に立つのが呼吸法ですが、いざとなると上手に出来なくなってしまいます。やがて子宮口が全開して分娩第2期に入ると、陣痛の痛みに合わせて力を入れる様に気張ってもらいます。これは生理的な痛みに対する対処の仕方ですので、以前よりは楽ですから、それまで大騒ぎしていた人も、気を取り直して頑張れる様になれます。それでも1〜2時間は掛かります。しかし、赤ちゃんが生まれえてしまえば、陣痛の痛みは収まります。胎盤が出る時はほとんど痛みはありません。さて、この陣痛の痛みは果たしてどれ位なのか。と云う事ですが、痛みに関する客観的な尺度がありませんので、他の痛みとの比較は難しいのですが、陣痛経験者によれば“今までに経験したどの痛みよりも痛い”と云う事です。子宮収縮の強さに関しては測定することが出来ますが、痛みの感じ方は個人差がありますので、その値と痛みの感じ方とはパラレルにはなりません。正常な陣痛でも痛みに耐え切れず、声を出したり叫んだりする人は沢山いますが、悶絶して失神する人はいませんので“陣痛は人間が自制出来る最大の痛み”だと云われています。しかし最近は自制できず、パニックになって、“もう我慢出来ないお腹を切って”と騒ぐ人が多くなりましたが、それでも、子供を生むという使命感の為とは云え、女性の陣痛の痛みに対する我慢強さは驚嘆に値すると私は常日頃感動しています。もう一つ、医者は要所、要所で診るだけで何時も妊婦さんの側に居る訳ではありませんが、それに比べ、この激痛にずっと寄り添って、励ましながら優しく面倒を看る助産師の包容力と忍耐力にはほとほと感心します。これぞ“人間が我慢できる限界の包容力”と云えそうです。無事にお産した後で、皆さんもおそらく同じ思いをされるでしょう・・・。
懲りもせず、これからお産をしようとしている愛読者の皆さんを脅かすような事を又書いてしまいました。だめですね・・・私は。でも、“按ずるより生むは易し”と云う昔からの有り難い諺もあります。互いに頑張って良いお産をしましょう!
 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
▲PageTop  
 
産婦人科・内科・心療内科・小児科・再生医療科(歯科口腔外科・形成外科)
医療法人 東恵会 星ヶ丘マタニティ病院
〒464-0026 名古屋市千種区井上町27番地
TEL : 052-782-6211(代表)
Copyright (C) Hoshigaoka Maternity Hospital All Rights Reserved