2023年8月18日
第209回
WBC 栗山メモに感動!
 8月13日夜、NHKでWBC栗山監督の栗山メモと言うドキュメンタリー番組をやっていました。WBCの監督を引き受けてから約1年半の準備の期間を克明に記したメモを基に回想した物語です。
 聞いていて、私も産婦人科の医者として、あるいは経営者として共感するところや学ぶところが沢山あって、話の内容に何時になく感動してしまいました。

 そのメモの根底をなしていたのは、逆算の発想です。もちろん優勝を想定して逆算していくのですが、今回の優勝には特別な意味がありました。それは初めてアメリカのマイアミで決勝ラウンドが開催され、アメリカが、初めて大リーガーを出場させて本気で優勝を狙ってきた大会だったからです。そこでアメリカに勝って優勝してこそ真の世界一と言える。今までのWBCとは訳が違うと言うことです。それにはどうすれば良いか、理詰めの逆算作業が始まりました。
 先ず選手の出場要請からのスタートです。自ら、わざわざアメリカまで出向いて直接ダルビッシュ有選手や大谷選手に参加を要請しますが、大リーガーは開幕に備えて調整の時期でもあり、球団の許可が出るかも怪しかったようです。事実、最初は招聘は難しいと思われましたが、彼らは栗山監督の意図を十分解っていて協力したかったようで、ダルビッシュ有選手は、ほとんど無理と諦めていたのに急遽参加してくれました。しかも宮崎キャンプの最初から参加しました。それはダルビッシュ有選手が、出るからには自分が中心となってチームを一つにまとめたかったからだと言うことです。すごいですね。
 大谷選手も参加することになりました。彼らはMLBの開幕に備えて一番大事な調整の時期だったにも関わらず参加したのです。駆けつけたダルビッシュ有選手や大谷選手も素晴らしいが、栗山監督の人徳に並々ならぬものが有ったからだろうと思います。二人とも日本ハムの監督時代に育ててもらった選手ですから、その時の恩義を十分感じていたでしょう。逆に、二人を大リーガーに育てて、送り出した栗山監督の手腕もすごいですが・・・。

 彼はプロ野球の監督でしたから、トーナメント方式で戦ったことがありません。プロ野球は勝率が勝負の世界ですので、極端なことを言えば、たまには負けを覚悟で主力選手を休ませて負けても最終的に勝率が勝ればそれで結果良しです。
 今回はトーナメント方式の戦い方を学ぶため、負けたら終わりの高校野球の監督に教えを請うたそうです。そこで学んだのが逆算の方式だと言うことです。もちろん最終的には優勝することを想定して、途中にどの国のチームに当たるかも予想しながら、どの試合にエースを使うかなど、データを綿密に検討して筋書きを考える。しかし、実際には筋書き通りには行きません。筋書きを外れた時、次の一手をどうするか迷います。だが迷っている暇はありません。頭の中をフル回転させ、状況を冷静に見て理詰めの判断をします。ピンチならダルビッシュ有選手でも非情に交代させる勇気もいります。ためらいや遠慮は判断を遅らせ、結果は悪いことが多いと言っていました。

 お産も同じです。一瞬で胎児の状態が悪くなる時が有ります。そんな時、迷っている暇はありません。どんな次の一手を打つか、私の頭もフル回転します。何分かの差で赤ちゃんが元気に出て来てくれるかどうかが決まるからです。
 野球とお産では全く異次元だと思いますが、現場の指揮官の思考は同じだと、この辺の話はすごく共感しました。

 結果は、3月の理事長コラムに詳しく書きましたが、決勝戦でアメリカと対戦し、3対2、日本リードで9回の表、2アウトランナー無しで、ピッチャー大谷、打者トラウト。カウント3-2、ホームランか三振かと言う場面で空振り三振。まるで漫画のような、漫画でも劇的すぎて遠慮するような、筋書き通りに終りました。
 メモの中に何度も出て来て、放送でも話題になりましたが、優勝するための、逆算、筋書き、理詰め、非情が紆余曲折はありながら随所に発揮されて、最後はシナリオ通りになったと言うことでした。
 見ていて、なぜか自分に置き換えてしまい、身が摘まされるようで、すごく感動しました。