第80回   乳幼児虐待死予防は妊娠中から!!
2012年11月20日  
 
   乳幼児虐待死が連日のように新聞やテレビで報道されていますが、たぶん皆さんの印象では、大部分は2〜3才の幼児が被害にあっているのだろうとお考えだと思います。我々産婦人科医も児童虐待は我々の手を離れた乳幼児の出来事のように思えて今まであまり関心を持っていませんでした。ところが実態は多少違っていて、乳幼児虐待死亡児の内、最も数の多いのが0才児、しかもその内でも圧倒的に多いのが0日令児なのです。
 昨年の実情を少し詳しく説明しますと、平成23年度の心中を除く虐待死数は437名ありましたが、その内の193名(44.2%)約半数が0才児でした。しかもその中の89名、46.1%が0ヶ月児、又89名中の76名、実に85.4%が0日令児なのです。要するに昨年の虐待死乳幼児437名中76名、17.4%の新生児がその日の内に葬り去られてしまったのです。何とも痛ましい出来事ですね〜・・・。
 この実情を知って、"この子たちを何とか救わなければならない"と日本産婦人科医会がこの問題を今年の最重要課題の一つに取り上げました。
 0ヶ月、特に0日令の死亡児は出生届も出ていないでしょうし、小児科にも罹っていないと思いますので、保健所や児童相談所など行政はもちろん、小児科でも察知出来ない状態です。そうなると、妊娠中から母親と接触している産婦人科のスタッフが未然に察知するための最も重要な役割を担うことになります。事実、加害者の約60%が実母です。因みに実父は14%で、実母の交際相手は8%と意外に少ない率でした。又、これらの実母の抱える問題点として、10代の若年妊娠(27.5%)、望まない妊娠(19.6%)、妊婦健康診査未受診、母子健康手帳未発行などが挙がっています。
 このような出産後の養育について出産前から支援が必要と考えられる妊婦を"特定妊婦"と定義していますが、この特定妊婦と直接接する産科医療機関のスタッフは妊娠・出産・育児に悩む女性に最も近い存在ですので、虐待防止の最前線にいる者として積極的な対応が求められています。しかし、0日令死亡児などは、おそらく産科施設では産れていないでしょうし、それどころか、妊娠中に一度も診察を受けて無いかもしれません。それでは産科施設がいくらきめ細かい注意を払ってもキャッチ出来ないことになります。
 稀な例ですが、15〜6才の若年妊娠の人は、本人も家族も妊娠そのものに気づかないまま産み月を迎えることがあります。"まさかそんなことは無いでしょう。見ればわかるでしょう"と思われるかもしれませんが、本人も家族も妊娠を全く想定していないので、少し太った位に思うだけで以外に目立たないものです。私も過去に数例経験しています。
 いずれにしても、この問題に産婦人科は今年から積極的に取り組んでいます。愛知県では、4月から妊娠届出書の下段の部分に13項目の妊娠に際して心配なことに関するアンケートの記入欄を設けました。この記載は当該施設と保健所に提出されますので、双方で特定妊婦を把握し、連携を取りながらフォローアップすることが出来ます。全国的には、産婦人科施設の窓口に"妊娠等の悩み相談窓口"と云う看板を掲げ、パンフレットも置いて特定妊婦が相談しやすい環境作りもしています。ただ、母子手帳未発行、妊婦健診未受診の人たちには対処の仕様がないので、その辺も踏まえた今後の対応が喫緊の課題となっています。
 このように初めから育児放棄が心配な所謂、“特定妊婦"ではなくても、ごく普通のお母さんでも生まれてから子育て中に育児不安、育児拒否になる人がいます。程度の差はあれ、10人に1人は産後うつになると云われていますが、その大きな原因に育児不安が挙げられます。この症状が昂じれば虐待に繋がる訳で、この辺の状況を早く察知するには小児科だけでなく、産婦人科の関与が不可欠です。
 日本産婦人科医会は、やっと今年重要課題に入れましたが、実は当院では10年以上前から小児科と共同でこの問題に取り組んでいます。出産はゴールでは無く育児のスタートだと云うとらえ方で、産後の入院中の母子ケア、特に育児サポートを重視してきました。先ず、妊娠中にバースプランと、家庭環境や悩み事などを記載する母子ケアのための問診票を提出していただきます。今年からは妊娠届出書のアンケート内容も加味して分娩前から妊婦さんの状況を把握し、入院中に産科医、小児科医、助産師、看護師が夫々の状況に応じたサポートをします。通常の入院期間内では心配な人には、母子入院と云ってある程度めどがつくまで入院を延長してフォローします。この場合、母親が産後うつなどの症状が有れば心療内科医も加わります。退院後も小児科を中心に出来るだけ長く母子ケアを続行して不幸な事態を起こさないようにサポートしているのです。
 話は飛びますが、先週あるテレビ局が"子育てウィーク"と云うコーナーで子育て不安が虐待に繋がると云った話題を取り上げていました。番組中でも、子育てに不安や悩みを持っている人は多く、不安を取り除くには妊娠中からのサポートが重要だと述べていましたが、その取り組みの一つとして、"子育て相談所"を開いて妊娠中の心配事から子育て不安など妊婦の相談に乗っている助産師を紹介していました。助産師としてのプロの知識と、3人の子育てをした自身の体験を踏まえて相談に乗っていると云うことでしたが、行政では手の届かないきめ細かな良いサポートだと思いました。
 余談ですが、驚いたことに、この助産師は長年当院で働いていた元職員でした。何時の間に自己研鑚したのか。それとも私の教育が良かったのか?いずれにしても当院で育った助産師がユニークな仕事をしているのを見て嬉しくなりました。ただこの仕事、採算は合っているのかなと老婆心ながら余計なことが心配にもなりました。
 蛇足ですが、最近私がこのコラムで書こうと思っていることを一足先にテレビが取り上げてしまいます。9月にも風疹流行の件で先を越されました。これは私の視点がタイムリーだと自慢すべきか、それとも先を越されて二番煎じになったと悔しがるべきか・・・?!。
 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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