第43回   テレビドラマ“ギネ〜産婦人科の女たち”の違和感
2009年10月20日  
 
 

 先週の水曜日から“ギネ〜産婦人科の女たち”と云うテレビドラマが始まりました。原作が昭和大学医学部産婦人科学教室、主任教授の岡井 崇先生が書かれた“ノーフォールト”と云う小説だと云うので、興味深く観たのですが、原作との余りの違いに愕然としてしまいました。これでは岡井先生の伝えたい事、云いたい事はほとんど伝わっていない気がしました。よく岡井先生がこの様な意図の企画でテレビドラマ化を承諾されたと不思議に思います。実は産科の医療崩壊が一番深刻だった平成19年にこの本は出版されました。当時のマスコミは全く産科医療の危機的状況には理解を示さず、ただ、医療ミスだ,たらい回しだと医療側を非難する事に専念していましたし、裁判も被害者救済と云うか、結果が悪ければ皆医者が悪いと云う風潮でした。その頃の(今も余り変わりませんが)産科の状況は危機を通り越し崩壊とまで言われていました。その主な原因である深刻な産科医師不足について、当直の多さに象徴される過重労働、それに輪を掛けて不理侭な医療訴訟の苦痛、さらに労働に見合わない低賃金などの問題を、我々は何とか一般社会の方々に知らせたい、理解して欲しいと悩んでいました。社会の理解が得られなければ厚労省も動いてくれない。マスコミも興味を示してくれないと考えていたからです。そんな時この本が出ました。当時我々産婦人科の医者の間では大変話題になりましたので、私も早速買いました。大学教授が臨床の第一線で働いている我々の心情を本当に代弁してくれているだろうかと半信半疑でしたが、でもぜひそう有って欲しいと期待しながら読みました。読後感としては充分我々の気持ちを代弁してくれていると満足した覚えがあります。只、残念な事に我々医者の間で売れただけでおそらくヒットセラーにはならなかっただろうと思います。それが今回ドラマ化されて全国ネットで放映されるのですから多くの一般の人々に産科の現状を理解してもらえると多いに期待したのですが・・・。ドラマでは、いきなり帝王切開手術のシーンで始まり、その最中に外傷の妊婦さんの救急を藤原紀香演ずる中堅の産婦人科医がなぜか医長らしき女医の反対を押し切って引き受け(上司の反対を無視する様な事は、現実には有り得ないと思うが)、それが又緊急の帝王切開になって、しかも大出血で心停止まで起こすと云った、チョット前に人気だったアメリカのテレビドラマ“ER”並みの慌ただしさで始まりました。とに角、産科の忙しさ、過重労働振りを強調しているのだナと最初は見ていましたが、この藤原紀香演ずるヒロインは、患者との間に一線を画し、患者との会話も親身になって考える風でもなく、無感情で必要最小限にとどめる感じで、研修医などとはろくに話もしない、ただ仕事熱心な、しかしどこかに暗い影を持つ冷酷な医師として描かれています。“あれ〜、今回のドラマ、原作とはシナリオもコンセプトも随分違うナ”と感じましたが、人間の記憶は本当に怪しいもので2年前に読んだ内容がはっきり想い出せません。そこで本箱から引っ張り出してもう一度読み直してみる事にしました。詳しく筋書きを紹介するのは遠慮しますが、概要は、都内のある大学病院の産婦人科医局を舞台にして種々な産婦人科の問題について軽妙なタッチで、テンポ良く描かれています。柊 奈智と云う入局5年目の女医さんが主人公で、彼女は専門医の資格試験を間近かに控えながら、患者さんの立場に立ち、親身になって患者に対峙し、研修医にも優しく指導し、寝る間も惜しんで、私生活も犠牲にして献身的に働く女性です。そんな彼女が担当した緊急の帝王切開手術で大出血し、母親が数日後亡くなってしまうと云う事故が起こります。それがやがて訴訟となり、証人尋問で原告側弁護士の異常なまでの過酷な詰問に遭い、これがトラウマとなって、PTSD(外傷後ストレス障害)を起こし、患者不信に陥り、お産で感動できなくなり、診療に意欲を無くしてしまうようになります。この裁判の行方がメインテーマですが、これは小説的にも面白く、先が知りたくて一気に読んでしまうほどです。その間に産科の代表的な病気の診断や治療法、手術手技等が出てきますが、さすが教授と云う感じで我々が読んでも教科書になりそうです。一方で産科の抱える矛盾や問題点も色々取り上げています。それらを若い医局員、教授、講師などにそれぞれの立場から語らせていますが、なかなか的確に我々の想いを表現しており、再読して新たに満足しました。只、最終的にはある事で彼女のトラウマが取れて産科病棟に復活する事になったり、また別れた元夫とも復縁したり、裁判の結果を除いては、一気にハッピーエンド的結末になるのが、如何にも素人小説家らしい終わり方だと思いますが、これも岡井教授の優しさかも知れません。話をテレビドラマに戻しますと、少なくとも第1回については、期待外れでした。と云うよりも、原作で出て来る柊 奈智医師は患者の心にまで入って献身的に働く医師、従って患者の信頼を充分受けている医師として描かれていますがが、藤原紀香演ずる柊 奈智医師は患者との間に壁を作り、ただ仕事熱心な冷酷な医師として描かれています。あれでは、なにかあれば訴えられても仕方が無いゾと思わせるようなキャラクターになっているのはなぜでしょうか。このキャラクターではいくら一生懸命医師が尽くしても結果が悪ければ訴えられてしまうと云う原作の意図が伝わらないと思います。これでは偏屈医師の単なる派手なER的ヒロインものになってしまっています。何かの伏線なのでしょうか。或いはPTSDになってからの彼女を描いたのでしょうか。それにしては労働意欲がありすぎますが・・・。だいたい藤原紀香は5年目の医者にしては貫禄がありすぎます。個人的には藤原紀香は好きな女優ですけれど、この役はミスキャストの様な気がして残念です。笑わない藤原紀香なんて詰まらない。本来の柊 奈智医師役に変身してもらいたいものです。こんな柊 奈智役では可愛そうと思ってしまいます。私の藤原紀香に対する個人的感情移入はとも角として、次回からは、原作の意図が伝わるような、我々産婦人科の現状を一般の人に解ってもらえるようなドラマに仕上げてもらいたいものです。期待していますョ!。

 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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