第6回  恩師の訃報
2006年9月20日  
 
   私の産婦人科の恩師、名市大医学部名誉教授の八神善昭先生が去る9月10日に亡くなられたと突然の訃報が届きました。享年75歳、肺炎をこじらせて名市大病院ICU(集中治療室) に入院中だったが小康を得て一般病棟に戻られたと聞いて月曜日にお見舞いに行こうと話していた矢先の事でした。いずれにしても逝くにはまだまだ早すぎるお年でした。偉大な巨星の他界によって一つの時代が終わったという虚無感に沈んでいます。
 私にとっては特別の人でした。産婦人科学の師匠というだけでなく、人生の指標のような方でした。甘えた言い方をすれば10歳年上のとんでもなく出来の良い兄貴といった存在で、不出来で日の当らない弟としては、尊敬はしているけれど、素直になれず時々反発をしたり批判をしたりしながら、でも何時も側にいて結局真似をしている、先生はどう思っていらしたか分からないが、私はそんな気持ちでいつも側にくっ付いていて本当にいろいろ教えていただきました。
 医者としての心構えもたくさん教わりましたが、その中で、今でも肝に銘じていることの一つは“臨床医学を志している者は良い医学者である前に良い医者になれ。”この心は“病気だけを看るのではなく先ず患者さんを診なさい”と言う事で特に大学の医者の陥りやすい弱点を付いていました。
 研究面での功績は抜群で、当時まだ地方の田舎産婦人科教室にすぎなかった名市大産婦人科を全国区にすべく、我々医局員にも叱咤激励をして、尻を叩きながら、習慣性流産、不育症の名市大として実績を残していきました。私も医局長としてお手伝いしましたが、やりすぎ、売名的過ぎるかなと危惧したりしたこともありました。しかし今から思えば、全国区になるにはあれくらい積極的で丁度かなと納得しています。一方医局人事など教室運営はほとんど任せてくださり、信頼して下さってもいたのでしょうが太っ腹でした。臨床面でも手術の、特に子宮がんの広範子宮全摘術の手際のよさ、旨さは手術時間の短さも含めて絶品でした。私も手術自慢の先生方のビデオなどを良く見ますが八神教授の域に達している方はいまだ知りません。
 私個人も、もちろん研究、臨床両面で徹底的にご指導(しごかれたという事です)を受けましたが、学問ばかりでなく、囲碁や将棋、夜の錦の遊び方まで、実践を重ねながら教えていただきました。そんな中で唯一私が先生だったのがゴルフです。と言うのも私は医者になってすぐゴルフを始めましたが、先生は教授になってから始められたので、私のほうがゴルフでは先輩だったのです。ただ何事においても努力家でゴルフもあっという間に旨くなられて師匠のはずの私も直ぐたじたじの状態でした。
 その後、先生は病院長、医学部長を歴任され、その方面でも能力を充分に発揮されました。丁度私が開業した頃でしたが、新しい産婦人科医院の方向性について親身になってご助言をいただき、また人的にもご援助をいただきました。先生の人間的な暖かさ、奥深さに触れ、先生の弟子で良かったとつくづく思ったものでした。厳しさと、寛容さを兼ね備えて、学会だけではなく名古屋の政財界にも君臨した先生は権威も権力もあった古きよき時代の最後の教授だったと思います。
 病院長、医学部長を歴任され、次は学長をと目指されていた時に、過労の為か脳梗塞に倒れられてしまいました。八神先生の人生に於いては唯一のしかし取り返しの付かない最大の挫折だったと思います。定年後に決まっていた名古屋市立の某センター長の職がキャンセルとなり、他に要請も無かったので、当医療法人で開設間近の介護老人保健施設星ヶ丘アメニティクラブの施設長としてお迎えしました。お体に多少不自由な所はありましたが、お考えは相変わらずしっかりしておられ、いろいろとご指導ご指示をされ、今日のアメニティクラブの礎を作っていただきました。
 昨年10年を期に引退されて、悠々自適になられるはずでしたが、今年になって体調を崩され入退院を繰り返していらしたところの訃報でした。現役を退かれて10年という歳月のせいでしょうか、脳梗塞の為に退官後の華々しいご活躍が無かったせいでしょうか、あれだけ名古屋市立大学、また名市大産婦人科教室の為にご尽力され、功績も残されたのに、会葬参列者の数がやや寂しかったのは最後までお世話した者の一人として残念でした。こんな栄枯盛衰の無残を感じたのは私だけだったでしょうか。

ご冥福をお祈りします。合掌。
 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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