第61回   東日本大震災。被災地妊婦さん受け入れ余話!
2011年4月20日  
 
   未曾有の災害をもたらした東日本大震災の復興がまだ思うようにはかどっていません。それどころか余震とも思えないような大地震が未だに頻繁に続いています。被災地の皆さんのご苦労は如何ばかりかと心が痛みます。
 一方で、福島第一原発の事故は当初の予測を大きく上回って拡大し、チェルノブイリ原発事故と同等の最悪「レベル7」と発表され、放射能汚染の問題が現実のものとなって来ました。妊婦さんや、授乳中のお子さんをお持ちのお母さんたちは、特別気がかりでご心配なことでしょう。早く安全に収束させてもらいたいものです。 
 唯、無責任な風評には惑わされないでください。最近出された日本産婦人科医会発行の「放射能汚染に関する基礎知識と現実的対応」と云う指針によれば、国際放射線防護委員会(ICRP)の見解は“人間が放射線を浴びても健康に影響が現れない放射線量は総線量100ミリシーベルト以下である”としています。しかし、我が国では法律の安全規制値が、“一般人が年間1ミリシーベルト、放射線業務従事者が20ミリシーベルト”と定められています。この値は人体に影響が現れないとされている100ミリシーベルトよりかなり低い値で定められていますので、ある程度安全規制値を越えても健康に影響は無いということの様です。
 現実にも避難地域以外では、現在の放射能汚染の状況は、お母さんはもちろん、胎児、乳幼児に対しても病的被害は起こらないとの見解です。但し、放射能汚染が今後も継続すれば累積線量が増えてきますので見解も変わってくると思います。政府やテレビの識者の発言を鵜呑みにばかりも出来ないかもしれません。これからは正確な情報に気を付けていてください。

  震災後、当院はいち早く被災地の妊婦さんの受け入れを決意し、日本産婦人科医会を通して表明しました。明日にも生まれそうな妊婦さんが、予定していた産院が震災のために崩壊したり、診療不能になって、生む場を失って途方にくれておられると思ったからです。
 蛇足になりますが、皆さんは被災地の妊婦さんを引き受けるのに大げさに“決意”するほどのことでも無いだろう。里帰り分娩を受け入れるのと変わらないではないかとお考えかもしれませんが、それは違います。通常の里帰り分娩は、前医の紹介状などで今までの医療情報がしっかり判ります。又来院の時期が妊娠後期とはいえ分娩前ですので、分娩までに妊婦さんの状態把握をする余裕もあります。しかし、今回は前医が妊娠経過を書く余裕など全く無く、下手をすれば母子手帳さえ失って持っていない妊婦さんがいきなり陣痛か、それに近い状態で来院されるのです。何も情報が無いままに分娩を管理するのは、患者さんにとっても心配でしょうが、医療機関にとっても大変不安でリスキーなことです。結果によっては、善意でしたことでも、昨今のご時勢ですのでクレームに繋がりかねません。そんな訳でやはりある程度の覚悟が要るのです。
 さて、臨戦態勢で緊張して構えていたのですが、結果的には震災後10日位して、名古屋に実家のある方が1例分娩されただけでした。
 考えてみれば、東北から名古屋は遠いし、当時は交通手段もままならず、名古屋にゆかりが無ければ、分娩前後の居住場所も探さねばならないのですから、そんなに簡単に当院で分娩と云う訳にはいかなかったのです。
 偉そうに、支援をすると云うからには、病院のリスクを心配する前に、交通手段から、名古屋での居場所まで手配し、現実に即した段取りを練った上で声を上げなければ、“絵に描いた餅”のようなもので、何の役にも立たない事に気づき大いに反省しました。
 一方で、被災地の人達では無い、関東圏の妊婦さんが、かなり大勢分娩予約を申し込まれました。きっと放射能汚染や、計画停電などが心配なのだと思いますが、当初は私の意図とはちょっと違うような気がして違和感がありました。しかし、私の友人の娘さんで首都圏にお嫁に行っている人達は、ほとんど亭主のみを残し、子供をつれて名古屋に避難していると聞いています。まるで戦時中の疎開のようですが、身内としては妊婦さんならなおさら呼び寄せたいだろうと心情は理解できますし、「レベル7」となった今では無理からぬことだと考えて悩ましいところですが出来るだけ引き受けています。
 余談ですが、若い愛読者の皆さんは疎開の経験はもちろん、そんな言葉も聴いたことが無い人が多いかもしれませんが、私は疎開の経験が有ります。今とよく似た状況で、太平洋戦争の末期に尾張大地震があり、当時住んでいた港区の我が家はほぼ全壊してしまいました。余震に怯えて公園の様な所でテント暮らしをしばらくしたのも覚えています。その頃から空襲も始まりだしたので、軍隊に行っていた父だけを残し、母と子供たちは父の実家の愛知県の足助の奥に疎開し、そこで終戦を迎えました。随分小さな頃の思い出です・・・。
 話を戻して、逆に、現在当院に通っていて東北地方へ、里帰り予定だった妊婦さんが、里が被災したり、予定の病院が崩壊したりして里帰り分娩が出来ないので、こちらで生みたいと云う人もいます。この人たちは被災地の妊婦さんと同じ条件だと思いますし、しかも経過は良く判っていますので快く引き受けています。
 そんな訳で、ここしばらくは(4〜5ヶ月)入院予約が定員オーバーしてしまいました。元々予約していただいている患者さんには、何かと、ご迷惑をかけるかもしれませんが、諸般の事情お含みの上、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
 
 
星ヶ丘マタニティ病院 理事長 近藤 東臣  
 
 
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