2015年3月20日
第108回
手緩いぞ!! 政府の“少子化社会対策大綱案”
 ご存じない方も多いと思いますが、3月1日からひな祭りを挟んで3月8日“国際女性の日”までの8日間が“女性の健康週間”と定められており、2008年からは厚生労働省も主唱する国民運動となりました。それを受けて、日本産婦人科医会、及び日本産婦人科学会は女性の健康を生涯にわたって総合的に支援するために様々な活動をしています。
 愛知県でもこの時期に、愛知県産婦人科医会と愛知県産科婦人科学会が主催して、“女性の健康広場in名古屋 健康美人セミナー”と云う形で女性対象の市民セミナーを開始して今年で9年目になりました。今年も3月7日にウインクあいち大ホールに約800名の若い女性を迎えて開催しましたが、ここ数年はもっぱら女性の妊娠・出産適齢期にテーマを絞っての教育的講演をしています。今年は名古屋市立大学産婦人科の杉浦真弓教授に“哺乳類としての妊娠適齢期”と題して、卵の老化について。藤田保健衛生大学産婦人科講師の西尾永司先生には“間違いだらけの婚活”と題して女性の身体のリズムと妊娠についてお話していただきました。
 付け加えますと、実は大勢の方に集まっていただこうと、客寄せパンダと云っては失礼ですが、目玉の演目として、人気モデルの道端カレンさんにスペシャルトークショウをお願いしてありました。彼女は二人のお子さんの子育て中なのですが、仕事と子育ての両立の工夫とか、出産後もモデル体型を保つための秘訣とか、大変苦労の多い事を楽しそうに、上手に話されて聴衆の皆さんを魅了し、前の二人が食われてしまいました流石です。
 話を戻して、妊娠・出産適齢期の若い女性に対する啓発については、私も産婦人科医として以前から機会あるごとに講演してきました。もちろんこのコラムでも何度も書きましたので、皆さんは耳にタコが出来ているかもしれませんが、簡単に云えば“初産年齢を早くしてください。出来れば20代前半で産み始めてください。高齢になってからの妊娠・出産は母児共に危険が増加しますよ”と云うことです。私としては主に産科学的な立場から、母児の安全を考えての助言ですが、これは一方で少子化対策にも繋がります。
 最初の出産年齢が若ければ、一人の女性が一生に産める子供の数が増えるからです。単純に考えて一人の女性が二人以上産まないと人口は増えません。高年齢になると高度不妊治療を駆使して、やっと妊娠しても出産までには流・早産など障害を乗り越えねばなりませんし、出産そのものも若い時ほど楽ではありません。増してや次の妊娠となるともっと大変になりますので、合計特殊出生率が2を超える(一人の女性が2人以上子供を産む)ことは大変難しくなります。
 一方、政府は数年前から少子化対策を目玉に挙げていましたが、それこそ机上の空論で、未だに保育所の待機児童を0にすることすら出来ていません。
 そんな状況の中で先日“少子化社会対策大綱”の見直し案が発表されました。それによると、少子化の現状は社会経済の根幹を揺るがしかねない危機的な状況と指摘し、今後5年間を集中取り組み期間と位置づけて、男性の育児休暇取得率を13%に引き上げ、妻の出産直後の休暇取得率80%。3人以上の子供がいる多子世帯への手厚い支援、若い男女に出会いの場を提供。結婚、妊娠、出産、子育ての切れ目のない支援をする自治体を現在の14%から70%に増やす。その他不妊専門センターの増加。妊娠、出産に関する教材の学校教育への導入など沢山の課題を盛り込んでいます。しかしながら、主に各自治体への努力喚起で、何時まで経っても出産、育児手当などの具体的な支援数値が示されていません。
 一方、合計特殊出生率が上がったフランスなどでは、具体的に出産数に応じた出産支度金、第1子20万円、第2子50万円、第3子以降100万円とか、年齢に応じた出産支度金、20代100万円、30~35才50万円、35才以降20万円。シングルマザー支援家族手当10万円/年などが支給されています。
 上記の健康美人セミナーで雑談をしていた時に“具体的にフランスのような数字が出たら皆さんならどうします?”と聞きましたら“産む!産む!”と云う声が圧倒的でした。“20代だと100万も貰えるなら絶対20代で産む”とか、“3人産むと100万貰えるならもう一人頑張ろうかな”とか、結構盛り上がりました。女性って意外とゲンキンなんだ(冗談です)と思いましたが、日本政府も一気にここまで進まないと、今回も結局努力目標で終わってしまいそうで心配です。
 私としては“本当に手緩いぞ!日本政府”と叫びたい気持ちで一杯です。
 皆さんも是非政府にアッピールして圧力を懸けてください。お願いします。