過日、機会があって、復元された名古屋城本丸御殿を見学してきました。現在、全3期工事の1期分、玄関・表書院が完成し5月29日から一般公開されています。
見ての感想を一言で云えば、絢爛豪華で素晴らしい御殿です。真新しいヒノキの色と香おりの中、絢爛豪華な障壁画がはめ込まれ、極彩色で華やかですが、どこかの外国の王宮のような、けばけばしさは感じません。これは日本文化の特徴で、日本人の本質的な感性のような気がします。あるいは私が日本人的な感覚で見るとそう見えるのでしょうか?。いずれにしても、一見の価値ありの建物だと思います。
今回は職員の方が丁寧に説明して下さったので、見た目だけでは無く、それぞれの価値や意味が良く解り外見の美しさの他に復元の奥深さも知ってなおさら感激しました。
これから、その概要を皆さんにお知らせしたいと思いますが、何分暑い日でしたし、私も年取りましたので、思い違いがあるかもしれませんが、多少のことはお許しください。
名古屋城本丸御殿は、あの関ヶ原の戦いで徳川家康が勝利してから15年経った1615年(慶長20年)に完成し、当初は初代城主徳川義直(徳川家康の九男)の住居及び藩の政庁として使われていました。しかし、公的な場と住まいが一緒なのは落ち着かなかったのでしょうか、1620年に義直とその家族は住まいを二之丸御殿に移し、本丸御殿は将軍上洛の際の宿舎となりました。三代将軍家光の上洛の時に、新たに上洛殿や御湯殿書院などが増築され、総面積約3100㎡の平屋建築で、部屋数は30を超え、屋根の高さが最高12.7mと壮大な建物でした。室内は虎や豹、花鳥・山水を画材とした障壁画や飾金具などで絢爛豪華に飾られ、建物,絵画、美術工芸品など全てが高い水準で、匠の技と美術工芸が調和した城郭御殿の最高傑作、まさに建物そのものが、“近代武家文化美術館”と呼ぶにふさわしいものでした。
事実、1930年(昭和5年)に天守閣とともに本丸御殿の建物が国宝指定され、さらに1942年(昭和17年)には障壁画が国宝に指定されています。ところが、残念なことに1945年(昭和20年)5月の空襲で天守閣とともに本丸御殿も焼失してしまいました。しかし、昭和初期の調査、計測によって残された109枚の実測図を始め,約200枚の古写真、江戸期からの20枚の絵図、1049枚もの障壁画、約2000個の礎石など、400年以上前の姿を伝える豊富な資料が保管されてきました。このうちの障壁画など一部のものは、戦災の起こる2か月前に引っ越したとのことです。戦火を予測して重要文化財を避難させることを提案した人も素晴らしいですが、あの戦争末期の混乱の中で実行したことに、名古屋人の文化度の高さを含めて感動します。
戦後、1959年(昭和34年)に天守閣だけが再建されますが、これは鉄筋コンクリートの建物でした。それから50年の時を経て、2009年(平成21年)に“平成の市民普請”として復元工事に着手することになりました。今度は単なる再建では無く、史実に忠実に匠の伝統技術・技法を継承することが大きな目的でもあり、復元プロジェクトは木造建築技術や美術工芸など伝統技術を受け継ぐ貴重な機会となり、類例のない文化遺産の継承になりました。
一方、狩野派の絵師たちが全身全霊を注いで描いた重要文化財の障壁画の復元模写を1992年(平成4年)から実施しています。これは当時と同じ伝統的な画法と最先端技術を駆使して狩野派絵師たちの感性や技の再生に挑戦しており、復元された本丸御殿には復元模写した障壁画が取り付けてあります。どこかの市長が“折角あるのだから、復元模写では無く本物の障壁画を取り付けろ”云ったそうですが、学芸員たちが本物の重要文化財の障壁画を常時取り付けていては、劣化が激しくて心配だと断ったそうです。それは正論ですが、実際にも真新しい薄紅色のヒノキの柱に、いくら本物とは云え、すすけて色落ちた重要文化財の障壁画を入れるより、複製でも色鮮やかな新品の方が似つかわしいと思いました。当然新築当時は全て真新しくてこんな感じだったはずですし・・・。
唯、これだけの豪華な造りで、しかも原型と寸分変わらない建築となるとさすがにお金も掛ります。だいたい坪1千万円位だそうですので、総建坪3,100㎡ですから、建築費だけでも相当な額になります。名古屋市は2002年に基金を設立し、総事業費百五十億円の内、百億円を市と愛知県、国が負担し、残り五十億円を市民の寄付で賄うことにしましたが、最近、河村市長が定例会見で寄付総額が目標の五十億円を超えたと発表したそうです。名古屋人の文化度も捨てたものではありませんね。
余談ですが、寄付は今でも受け付けているそうです。しかも5万円以上寄付すれば木札に名刹を残してくれます。私も名古屋の文化のために一口乗るつもりで、応募方法を聞いてきました。皆さんも如何ですか・・・。その前に一度見て納得してから寄付しますか。
蛇足ですが、原型に忠実に作っていますので、もちろん冷房はありません(天守閣は冷房があり快適です)。私が行った日は、真夏としては幾分涼しい日でしたが、それでも汗だくになりました。照明もあまり明るくありませんので、行く季節と時間を選ばれた方が良いと思います。
今、20年振りの遷宮で、伊勢神宮がマスメディアに取り上げられて、スポットライトを浴びていますが、名古屋城の本丸御殿もそれに匹敵した素晴らしさですので、名古屋観光の目玉として自信を持って推薦できます。もっと宣伝して注目を集めて欲しいと思いますが、唯、まだすべてが完成していないので、工事中の所もあり圧倒的な存在感には欠けていて、今一迫力が無いかもしれません。第2期工事の完成が2016年、最終第3期工事の完成は2018年だそうですので完成するのは、まだ5年も先のことです。
待ちどおしいですね!!