2013年2月20日
第83回
セックスレスで日本が沈没?!
この事実は我が国にとって大変由々しき問題です。行政では少子化対策が種々練られ、例えば、妊婦健診の補助とか、出産育児一時金とか、保育施設の整備など、子作り、子育ての環境を整えるよう施策がなされていますし、我々産婦人科医も、不妊症夫婦に子供が出来易いように医学的に一生懸命応援していますが、肝心の妊娠適齢期夫婦が子作り作業をしないのでは全く無駄なお節介と云うことになります。これでは我が国の少子化は止まりません。
男性諸君、仕事でお疲れの所を毎晩々々頑張れとは云いませんが、妊娠チャンスは1ヶ月に1回しかありませんので、せめてその時位は子作り努力をしてください。奥様も面倒くさがらずに月に1回位はお付き合いしましょう。・・・と云っても、現実には妊娠はそんなに簡単には出来ません。精子は射精後女性の体内で5日間位妊孕力がありますが、卵は排卵後1日しか妊孕力が有りませんので、妊娠できる期間は1ヶ月の内精々5~6日だけと云うことになります。しかし、上手にこの時期に性交が行われたとしても、妊娠する確率は3分の1程度です。しかも排卵日を正確に見つけることも意外と難しいので、結局“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”的に頻繁にしないとなかなか妊娠出来ないのです。こんな条件にもかかわらず40%以上の夫婦が月一もしないのでは日本の将来はお先真っ暗です。
余談ですが、それではと云うので、逆に避妊に応用しようと思うと排卵日が何時なのか知るのは結構難しいので失敗します。皮肉なものです。
上記の新聞記事の報告者の北村邦夫先生は性教育、経口避妊薬の分野の第一人者で、週末には毎週のように全国各地を飛び回って講演やら、啓蒙活動をなさっています。私も日本産婦人科医会の女性保険委員会でご一緒させていただいていますが、大変気さくで、しかも精力的な先生です。その北村先生の近著に“セックス嫌いな若者たち”と云うレポートが有ります。大変興味深いアンケート結果や、統計を基に若者のセックス離れの実態を示され、これが少子化に繋がっているのではないかと推論されています。
中でも、衝撃的な数字が、2011年調査で16~19才男子の36.1%がセックスに対して“関心が無い”もしくは“嫌悪している”と答えていることです。これは前回調査(2008年)の17.5%に比べて2倍強になっています。20~24才の男性でもこの割合は11.8%から21.5%とほぼ倍増しているとのことです。即ち、16~19才の男性の3人に1人が、そして20~24才男性の5人に1人がセックスに“無関心”か“嫌悪している”ことになります。
最近、草食系男子と云う言葉が流行っていますが、正にこの連中のことを云うのでしょうか。この年齢の男子はホルモン的に最も精力が盛んで女性とセックスしたい時期のはずなのに信じられません。片や、女性もセックスに“関心が無い”、“嫌悪している”人の割合が2008年調査よりも増加して、16~19才世代は理解できるとしても、35才以上全ての階層で50%を超えています。
理由は色々あるようですが、コンピューター世代になって直接のコミュケーションが不得意になり、バーチャル化も進んで生身の相手に臆病になる、あるいは面倒だと云う傾向が目立つそうです。
一方、セックスレスの統計とは逆に、年間のセックス回数のデータも載っていました。これはイギリスの会社が2007年にまとめたものですが、日本人は年間平均48回、週1回弱ですので、まあまあな気もしますが断トツの最下位でした。因みに第1位はギリシャの164回(週3回強)各国平均が103回だそうです。世界標準から比べれば日本人は半分以下の貧弱さです。頑張りましょう!
著者は、この若者そして妊娠適齢期夫婦のセックス離れが我が国の少子化の重要な原因の一つではないかと推論しています。女性が妊娠する確率が科学的に一定だとすれば、出生数が減り、人工妊娠中絶数が減り、死産数も減っている現状は、性交の頻度そのものが減っていると考えざるを得ないと述べ。この現象が続けば日本は急激な少子高齢化が進みやがて沈没するだろうと危惧しています。
この事態を打開するには、若者たちへの性教育、それも社会学的、心理学的な側面を重視した男女間のコミュニケーション・スキルを幼い頃から磨く学習が必要だと強調しています。性教育について論じだすと必ず“寝た子を起こすな”と云う声が聞こえるが、こんなにも若者がセックスをしたがらないのであれば、逆に性行動を促すような“寝た子を起こす”教育が必要になってくるかもしれないと大胆に締めくくっています。
確かに、若者たちが欧米並みにセックスすれば少子化なんかすぐ解消するかもしれません・・・。これはチョット暴論ですね。外のファクターも充分配慮しなければなりませんでした。