2006年11月20日
第8回
若い女性諸君、痩せすぎにご用心
痩せすぎの流行は世界的のようで、つい最近、ファッションショウのモデルにBMI 18以下の人の出場を禁止して、若者の痩せ傾向に歯止めを掛けようとした国があって話題になりました。このこと自体は行き過ぎかもしれませんが、国家的に若者の健康被害に目を向けるのは素晴しいと思います。
さて、月経異常の原因は腫瘍、先天性性器奇形など器質的な疾患もありますが、痩せに関してはほとんどがホルモン異常によるものです。もしこのコラムの読者の中に月経異常で悩んでいる方がいらしたら、まず基礎体温を付けてみてください。これは卵巣機能不全(ホルモン異常)を自分で調べることが出来る最も簡単でしかも大事な検査です。無月経や頻発月経の人はおそらく不規則な低温期が続いているでしょう。月経が遅れる人でも、月経前2週間が高温期になっていれば、遅れ気味だが排卵は有ったと云うことですのであまり心配は要りません。病院へ掛かろうと思っている人は、せめて1~2週間位基礎体温をつけてそれを表にして持って来てくださると診断の補助となり助かります。病院では問診、内診、超音波検査などの基本的な診察の他に、ホルモン検査をします。主に測るものはLH,FSH(卵巣刺激ホルモン)、E2(卵胞ホルモン)、PRL(乳汁分泌ホルモン)、T3,T4(甲状腺ホルモン)などです。
LH、FSH、E2のすべてがやや低下の場合は第1度無月経、無排卵周期症の診断であまり卵巣機能不全のレベルは重くないと考えます。挙児希望の無い場合は黄体ホルモンの投与で消退出血を起こすことが出来ます。LH、FSH、E2 のすべてが著しく低下の場合は第2度無月経の診断で卵巣機能不全としては重いほうです。挙児希望の無い場合はKaufmann療法と云って黄体ホルモンと卵胞ホルモンの両方を使用する治療が必要になります。LHとFSHが上昇、E2が著しく低下の場合は早発閉経と云って若年の更年期と云うことですが、こんな例はそんなにありません。PRLが上昇の場合ですが、まずPRLはその名の通り産後の授乳期に上がるホルモンです。そしてその間は排卵を抑制して無月経になり、授乳中は妊娠しないようにコントロールしてくれます。自然の摂理は素晴しいもので、実に旨く出来ていますね。しかし授乳中でもないのにPRLが上がって卵巣機能不全を来たすことがあります。これは稀には下垂体腫瘍のこともあります。しかし多くの場合、痩せすぎの人が拒食症になったり、パニック症候群になったりして抗神経剤を内服する羽目になり、その薬剤の一部にPRL上昇の作用があるため、そのいたずらで卵巣機能不全を起こして月経異常になることがあり、注意を要します。その他甲状腺ホルモンの異常も月経異常を来たします。しかしこの場合は痩せすぎの人ばかりとは限りません。
そうそう、無月経で一番疑わしいのは妊娠でした。いくら若くて未婚でスリムでも、これを見落としては産婦人科医失格ですのでしっかりチェックさせてもらいます。余談ですが、痩せ嗜好の人は妊娠しても体重を増やしたがらないので、母児管理の面で普通と逆の苦労をします。普通は妊娠中体重が増えすぎないように指導するのがほとんどですが、彼女たちには逆に1ヶ月2Kg位増やしてくださいと指示します。ところが1Kg以上増えると一大事とばかりに不安をつのらせて食事を減らしてしまいます。これでは胎児に充分な栄養が行かず、赤ちゃんが育たないと、理屈では判っていても肥満の自分はもっと嫌だと云うことなのでしょうか。
若い女性のスリムなスタイルは世の男性にとってはもちろん、ご本人にとっても素敵で憧れですが、度を過ぎると病気を併発してしまいますので要注意です。卵巣機能不全症も不快で嫌ですが、拒食症や、パニック症候群になっては、本人だけでなく家族もつらい思いをします。又、最近若い人にも多くなってきた月経困難症の源病である子宮内膜症は痩せすぎのために子宮筋への栄養障害が原因の一つと云われていますので、つらい月経痛を起こさないためにも痩せすぎにはご用心と云うことです。
若い女性諸君、是非BMI18~24の標準の範囲で健康的な美人を心がけましょう。
そうすれば良い伴侶に見そめられ、やがて良い妊娠、良いお産が出来ること請け合いです。