2007年5月21日
第14回
星ヶ丘アメニティクラブ 10周年
ご存知の方もあるかと存じますが、当 医療法人東恵会は、星ヶ丘マタニティ病院の他に、名東区西山台で、介護老人保健施設 星ヶ丘アメニティクラブを経営しております。
実は、その星ヶ丘アメニティクラブが開設10周年を迎え、5月12日土曜日の夜に、某ホテルで楽しく華やかな記念祝宴を開きました。パーティは来賓の方々の祝辞から始まり、乾杯、プロの女性コーラスグループの会場を一つに盛り上げた歌と踊り、アメニティ職員の自前の出し物(いつもレクリエーションなどで手馴れているので結構上手い)、最後は花束贈呈で感涙を誘い、素人の企画としては素晴しい演出でしたが、その中に“理事長独白”と云う、私がこの10年の悲喜こもごもの思い出を語るコーナーがありました。そこで2日前に出来あがったばかりの開設10周年記念誌(自慢ついでに言いますと、この記念誌も総ページ数112ページで、しかも写真は全ページ、カラー写真となっており、何よりも開設当時の苦労話や現在の仕事ぶりなど、職員は勿論、関係者の皆様の力作が満杯されている素晴しい1冊です)の内容を参考にしながら“この老健に託した私の思い”を話しましたので、その一部を紹介してみたいと思います。
そもそも星ヶ丘アメニティクラブはどうして出来たのか。
来賓の方々の祝辞や世間の評判では、“少子高齢化を見越した経営的戦略で、先見の明のある卓越した経営手腕だ”とお褒めを頂いています。折角、先見性を持った優れた事業戦略だと評価してくださるのだから、“その通りでしたが、思惑道理に行かず思わぬ苦労もしました”とでも云えば無難だと思いますが、実はこの老健はそんな冷静な経営的戦略性や、先見性を持って計画した訳ではなく、もっと単純な動機で、よく言えば社会正義的な、世の中に対する義憤的な、はっきり言えば自己満足的、発作的な発想でスタートしました。
今から15年ほど前になりますが、あるきっかけで、当時確か4~5軒しか無かった名古屋の老健を見学して廻りました。ところが、どこも暗くて侘しい雰囲気で老人独特の悪臭が漂い、入所している人達も無表情でまるで活力がありませんでした。さすがにこんな所へは自分の親は入れたくないなと思いながら帰途に着いたのを覚えています。しかしそんな所でも満員で何時入れるか目途が立たないと云う事でした。その実情に驚き落胆した私は、今日の日本の繁栄をもたらしてくれた我々の親の世代の人達はもっと大切に遇されるべきだと思い、それならいっそ、そんな先輩達の憩いの居場所を最初に自分で作って世間に模範を示そうと決心したのです。幸いな事に私は医者でしかも医療法人のオーナーである、“最も条件の揃った俺がやらずに誰がやる”と正義感にも燃えて、“家族が後ろめたさを感じないで親に薦められる施設、それどころか、親を入れた事が、親戚や知人に自慢できる施設、そして何よりも入った本人が生き生きとして活力のある毎日を過ごせる老健”を、いずれはお年寄りが老健に入所することが当たり前の時代になるだろうから、その先鞭をつけるような理想的な施設をおれが作ってやる! すっかりその気になって、経営的計画性どころか、どちらかといえば、夢の実現に向けた発作的な発想からこのアメニティクラブは生まれることになりました。
経営者が冷静で、長期的計画性に富み、経営安定優先の、安全運転であれば、一緒に働く人は安心して付いて来られるでしょうが、私のように夢や、理想を追っかけるのが優先し、しかも直ぐ実行に移そうとする人間がトップでは一緒に働く人、特に幹部の人たちはそれを如何に安定させるのか心配で仕方がないでしょう。そんなことは私も重々承知してはいますが。しかし、誇りの持てない仕事では幾ら儲かっても仕方ない。志の無い、生活の糧の為だけの仕事では張り合いがない。夢を追い、理想に向かって、志を持って仕事をしなければ仕事をする意味がない。自己満足と云われるかもしれないが、世のため、他人のためになる仕事をしたい、毎日の仕事に誇りを持って働きたい。大げさに言えば私はこんな気持ちでいつも仕事をしています。
さて、当時は国の政策で老健や特別養護老人施設を増やすよう、いろいろ優遇策を打ち立てていましたし、名古屋市でも市内に老健を建設するように誘致をしていましたので、建設のタイミングも良く、一杯の夢と理想を積み込んでスタートした星ヶ丘アメニティクラブは当時突出の老健だと自負できる出来栄えでした。しかし、調子に乗って大きな借金をしてほぼ理想通りの施設を作ったところ、後になって次々と優遇策が廃止されたり、規制が厳しくなったりして、まるで2階に上がって梯子をはずされたような事になり、初期投資の予想外の膨張と人件費の多さも重なって、かなりの額の赤字経営が続きました。
いくら世のため、人のため、理想の実現のためとは云え、私には私財を投じて慈善事業をするほどの財力も、そこまで高邁な精神も持ち合わせていないのに、結果的に世のため、他人のためだけの純粋なボランティア事業を続ける羽目になりました。余談ですが、この種のことは医療政策の中で度々起こります。厚労省による一種の国家的詐欺のようなもので医療関係者は度々煮え湯を飲まされています。しかし、職員諸君の懸命の努力によってやっと平成17年度から黒字に移行しました。これでようやく純粋社会奉仕のボランティア事業から脱却出来て正直ホッとしています。
赤字で苦しんでいた頃を考えると、立派な10週年パーティが出来るなんて夢のようで大変感慨深いものがあり、改めてアメニティクラブの諸君の努力に感謝をしています。
褒めついでに言うと、アメニティクラブで働く若者たちと接するようになって、“今時の若者”への私の評価が変わりました。確かに見た目は茶髪だったり、変なところにピアスをしていたり、だらしない服装だったりしますが、一たび仕事となれば一本筋が通って結構やります。“今時の若者も捨てたものではない”と実感しています。
いずれアメニティクラブの内容についても紹介する積りですが、結構素敵な施設ですので、このコラムの愛読者の皆様も親御さんの為に、是非一度見学に来てください。