2011年10月20日
第67回
ロータリー、経営者セミナーの講師!?
 私が所属する名古屋和合ロータリークラブには、上場企業や、名古屋の有名優良企業の経営者、トップの方が大勢おられます。一方、最近2~3年の間に40代から50代前半の若手で新進気鋭の経営者の皆さんが多数入会されました。
 今年に入って、若手の間から、古手(?)の経営者に経営の理念、哲学、或いは成功の秘訣についての勉強会をして欲しい、出来れば内輪の会だから建て前だけでは無く本音の部分でも参考になる話が聞きたいと云う趣旨の要望がありました。
 それに応じて1回目、2回目はこのセミナーの趣旨に相応しい大手優良企業の経営者が、実にうん蓄のある素晴らしい話をなさいました。二人とも会社の業績はもちろんですが、その上、話が旨いので本音の部分もウソかホントか色々な逸話を語られて大変盛り上がった会になりました。
 ところが、こともあろうに3回目の講師に私が指名されたのです。今までと打って変わって、中小企業のしかも病院経営の話では何の参考にもならないでしょうし、もっと他に大手企業の相応しい方が大勢いらっしゃるではないか・・・。とお断りしたのですが前回の講師の指名だから断れないと押し付けられました。正直云ってお産の話なら幾らでも出来ますが、経営の話を1時間半もしろと云われてもネタ不足で困ってしまいます。
 只、病院の経営は一般企業の経営とは多少趣が違います。普通、一般の企業は会社を発展させ、社会に貢献すると共に利益を上げる事が目的だと思いますが、病院は医療法に、営利目的の病院、診療所の開設は許可しない。又、医療法人の剰余金の配当も禁止。とあるように、初めから利益を上げると云う目的は否定されています。それでは何故そんな仕事をしているのか。その辺の話をすれば、一般企業の人達には新鮮で、今までと違う発想が浮かび、多少参考になるかもしれないと思い、渋々引き受けました。

 元々、開業する気は無く、自分は研究者向きだと思っていた私が開業に踏み切ったのは、
当時(約40年前)のあまりにも妊婦さんを無視した分娩への対し方に疑問が沸いて来たからです。これほど妊婦さんに我慢を強いても良いのか?。女性に取って一生に二度か三度の大げさに云えば命をかけた大仕事をするのだから、もっと妊婦さんは大事にされるべきだ!。妊婦さんの意思を尊重して、母児共に負担の少ない分娩を考えるべきだ。妊婦さんの意思を無視した管理に、良いお産はあり得ないと考えるようになりました。医療的にも、アメニティの面でももっと妊婦さんに優しい分娩を実践したい。そんな思いがフツフツと湧いて来ました。しかし、大学病院と云う大きな組織の中では、私の考えが通用するはずもなく、関連病院の産婦人科部長でも無理とわかり、妊婦さんに対する自分の思いを実行するには自分がトップになって計画し、引っ張っていくしかないと考えて開業を決意しました。こんな風に云うと恰好良過ぎますが、でも、これが本音です(建て前でもありますが・・・)。 
 その時の理念、コンセプトが「患者さんに優しい理想の周産期病院の確立!」「より安全
でしかも快適な分娩を」と云う事で、以後ずっと当院のモットーです。 
 ここで強調したいのは、安全は当然ですが、もう一つ欲張って快適な分娩も目指した事です。この部分が最も斬新な部分で、当時誰も考えていませんでした。快適さには陣痛の苦しみから開放されると云った医療的な部分と、病院が綺麗とか、食事が美味しい、職員が優しいと云ったアメニティの部分とが有りますが、私のこの発想は妊婦さんのニーズに合致したのでしょう。患者さんの絶大な支持を得て予想以上に良い結果をもたらしました。
 やがて私のこの理念は広く世間に認められ、現在の産科医療の方向性に先鞭をつけたと自負しています。当時私は、産まれたばかりの子供を含めて3人の子供の親でしたが、まだ子作り世代の親でしたので、お産を妻や赤ん坊の身になってどうして欲しいかと考えることが出来ました。そこから出たアイデアが患者さんの支持を得たのではないかと思います。医者として、経営者として考えると、確実性や安全性、或は利益性が優先となり、かえって旨くいかなかったかもしれません・・・。
 こんな話から始めて私の経営上の理念、哲学を縷々述べました。少し当時の院長心得(今も現院長に引き継いで貰っていますが)の幾つかを紹介しますと、
“常に夢を持ち、理想を目指して邁進せよ”それを折にふれ、時を見て、職員にも語り共有すると共にカリスマ性を発揮する事。
“どうすれば安全で快適な分娩が出来るか”と云う発想で全てを考えよ!どうすれば儲かるかと云う発想で考えると、ろくなアイデアは浮かばない。
“人材を大事にしろ” 病院は資格社会なので何時でも求人難である。だから人は余分に雇って人的に余裕を持て! そして大事に育てて信頼できる幹部を作れ!
“職員に対して色を出すな”腹心も必要だが、数も必要。エコ贔屓をするな。
“医療に薄利多売は馴染まない”症例が多くなればそれだけ危険も多くなる。量的にも質
的にもキャパシティを守れ。
“仕事も遊びもトップが先頭に立て”何事も院長が先頭に立って頑張っているから、私もや
らなきゃと思わせよ・・・。等々です。      
 しかし、講演後の質疑応答で、“どうすれは、信頼して任せられる幹部が出来ますか”とか真面目な質問もありましたが、大部分は“3人目が出来ないがどうすれば良いか”とか“お産に立ち会った時こんな事を助産師がしていたがあれで良いか”とか、要するに産科がらみの質問ばかりでした(もっともこれらの質問も真剣で真面目と云えば真面目でしたが・・・)。
 やっぱり餅は餅屋で、経営の話はほどほどにして、お産の話を重点的にした方が盛り上がったかなと後悔しています。