2022年7月20日
第196回
再び少子化問題を考える。
 随分前に梅雨明け宣言が出されたはずですが、この10日位は毎日雨模様で鬱陶しい日が続きます。梅雨明け宣言は未だ早かったのに気象庁は訂正も弁解もしません。多分“戻り梅雨”と云う旨い言い習わしがあるので今回はそれだと自己弁護しているのかもしれません。
 ゴルフの出来ない鬱憤を気象庁にぶつけても八つ当たりになりますが、ジメジメして心が滅入ります。
 気晴らしに飲みに行けば帰りに土砂降りに見舞われてびしょ濡れになり、タクシーの冷房で風邪をひきそうになりました。
 愛読者の皆さまはこの気候のもと、如何お過ごしでしょうか。ご自愛ください。

 先だっての参議院選挙の選挙運動中に、多くの候補者、特に女性候補者が少子化問題について話していました。それも、出産手当金の増額位ではなく、育児手当金を充実させなければ出生数は上がらないと云う趣旨の事を言い出しました。
 私が以前から主張していた、少子化を本気で考えるなら、生まれた子供が成人するまでの養育費を補助しなければ無理だと云う事をやっと前面に出してくれたと嬉しくなりました。
 是非実現して欲しいのですが、彼らが皆当選した訳でもありませんし、選挙中だけの空念仏だったかもしれません。
 冗談かもしれませんが、老人は選挙権があるので手厚くするが、子供や胎児には選挙権が無いので予算を懸けないと云われています。本当なら是正して欲しいものです。

 既に50年も前から出生数は減少しており未だに止まりません。出産数が減って先ず困ったのが我々産婦人科で、分娩数の減少は収入に直結するので死活問題です。次が保育園や幼稚園など学校関係者。今や消費経済全体に影響が出ています。
 しかし、出生数は減っても総人口はしばらく増え続け、経済も好調でしたので、政府は喫緊の問題では無いと考えていたのか、本腰を入れていませんでした。理由は年に250万人以上も生まれた団塊の世代の人々が、戦後の厳しい栄養事情を乗り切って生き残った人たちですので、皆元気で日本復興の中心となって働き、中々死亡しなかったからです。さすがに70歳を過ぎて死亡者が増えて、2005年には死亡数が出生数を超え、人口減少に傾き、去年は出生数81万人に対し死亡数142万人と61万人も人口が減りました。

 上のグラフは年齢別人口分布図ですが、右が理想の年齢別人口分布で釣り鐘型をしています。左は2021年の人口分布ですが第1次、第2次ベビーブームの所が膨れているのは良いとして下の方が逆台形になって尻つぼみです。このいびつな形がバランスの良い生産年齢を保つ釣り鐘型になるには何十年も掛かります。のんびりしていられないのです。候補者の公約だけでなく政府も本腰を入れてもらいたいものです。
 ヨーロッパ、特にフランスでは30年ほど前からこれに気付いて出産、育児に対して優遇政策を取りました。出産費用の全額負担はもちろん、出産数に応じた出産支度金、、年齢に応じた出産支度金、シングルマザー支援家族手当などが支給され、その上で成人するまでの養育費も出ます。それも3人目を手厚くしています。3人子供がいたらシングルマザーでもそこそこ暮らしていけるようになっています。そうなったらさすがに子供を産む人が増えました。
 翻って日本はどうか。一応日本政府も少子化の現状は社会経済の根幹を揺るがしかねない危機的な状況だと指摘し“少子化社会対策大綱”案を発表しました。しかしながら、何れも自治体や企業への努力喚起で、何時まで経っても出産、育児手当金などの具体的な支援数値が示されていませんでした。その後やっと出産一時手当金が2009年に創設されて、直接的な出産補助金が出来ました。最初は38万でしたが、今は42万です。この額も分娩費用には足りません。因みに当院の分娩費用でも60万位は掛かりますので、まあ分娩費補助と云う感じです。今、選挙目当てか、これを5万円位上げようと議論されています。それで少子化対策だと云われても、これ位ではほとんど効果はないでしょう。
 最近不妊治療が保険適応になりました。これも少子化対策の一環だと政府は宣伝していますが、非常に違和感があります。元々子供が出来にくい人の治療ですから、保険適応になったからと云って急に出産が増えるとは考えられません。多少治療する人数が多くなり、治療期間も長くなるでしょうが、生児獲得率は変わらないでしょう。少子化対策としては効率が悪いものです。
 本気で少子化対策を考えるなら、若い女性が働きながら産み易い環境を作ると云うことに尽きます。それには妊娠・出産費用の全額負担はもちろん。成人までの育児費用も子供の数に合わせて負担する。産休や育休も取りやすくする。それから日本は文化的に難しいかもしれませんが、シングルマザー、婚外子を法的にも社会的にも差別しないと云うことも大事だと思います。