2008年10月20日
第31回
初めて!夫婦仲良く学会旅行
どうも、学会の本題よりもつまらない年寄りの愚痴話ばかりが先に出てしまいましたが、今年のメインテーマは、一日目が“前置胎盤・癒着胎盤の取り扱い”。二日目が“妊娠中の急性腹症“の2題でした。前置胎盤・癒着胎盤は、ご存知の方も多いと思いますが、大野病院事件と云って、手術した産婦人科の医師が逮捕された事件の原因となった病気です。この事件については私も同じ産婦人科の医師として色々思う事、云いたい事がありますが、それはさて置き、とに角、無罪になって良かったと心から胸を撫ぜ下ろしています。この事件が、最近医学生が産婦人科を志望しない大きな理由の一つになっていたことは間違いありません。もし有罪になっていたら、医学生のみならず、私も含めて日本中の産婦人科の医師はお産から撤退したでしょう。幾らなんでも、必死に治療しても結果が悪ければ、罪人にされる様ではあまりに報われません。そんな病気を扱う産科は誰でも敬遠したくなると思います。
こんな風に書くと、皆さんはお産が怖くなって益々産み控えになってしまうかもしれませんが、それでも敢えて云います。お産の安全神話などありません。あれは一時期、妊婦専門雑誌などが広めた虚構です。このコラムでも、再三書いているように“お産は女性にとって一生に2度か3度の命を賭けた大事業です”。頻度は低いですが、未だに命に関わる事もあるのです。そこを理解した上で、それでも愛する人のため、人類存続のためになさねばならない女性だけに託された崇高な事業ですので、ぜひチャレンジしてください。現在の産科学では未だ完全とは云えませんが、不幸な結果を防ぐために我々産科医は全力を挙げてお手伝いします。
さて、今回のシンポジュームの結論を要約しますと、前置胎盤の診断は比較的容易で、周到な準備をして臨めば結果も良好ですが、癒着胎盤を併発しているかどうかの診断は術前には予測出来ない事もあり、術中に初めて解かった時の対応が重要であるとの事です。色々子宮温存の工夫は考案されていますが、上手くいかないと手遅れになってしまうので、今の段階では早めに子宮摘出を決断するのがベターだと云う事でした。
もう一つの妊娠中の急性腹症について。これは妊娠中に急にお腹が痛くなった時に、陣痛など子宮収縮の痛み以外に何を考えるかという事ですが、妊娠中の虫垂炎が、意外に診断し難いと云うことで話題になりました。妊娠子宮の増大によって、虫垂の位置が定型的な場所からずれる事、妊娠中のため放射線検査などを遠慮しがちな事、確定診断が付かないので外科が手術をためらう事などが重なり、穿孔性虫垂炎の頻度が非妊時より高くなって結果的に重症になることが多いので注意を要するとの事でした。又腸閉塞は妊娠後半期に多くみられ、これも胎児への影響を考慮するあまり診断が遅れる事があるので要注意との事です。この他、卵巣腫瘍の破裂、茎捻転、急性膵炎、HELLP症候群など、急性腹症を呈する病気は色々有りますが、いずれも胎児への影響を配慮するあまり、診断が遅れがちになり重症化することがあるので、血液検査や超音波検査だけでなく、レントゲンや、CT、MRI等の検査も積極的にして早く診断を確定し、迅速に処置を行うことが重要であると結論されました。
蛇足ですが、私がシンポジュームに没頭している間に、家内は奥様ツアーで秋の北陸路を満喫していました。久しぶりに女房孝行も出来、初めての夫婦水入らずの学会旅行は大成功(?)でした。