2021年10月20日
第187回
妊婦さんと赤ちゃんを守るためにコロナワクチンを打とう!
 日本産婦人科学会等が8月14日に”妊婦に対する新型コロナワクチンの接種を推奨する”と云う見解を公表しました。その中で”妊婦は感染すると重症化のリスクが高いとし、妊娠中の時期を問わず接種することを勧め、妊婦が感染する場合8割は夫またはパートナーからの感染だとして、夫またはパートナーの接種も勧める”としています。愛知県もこれに合わせて、大規模集団接種会場で優先接種をすると発表しました。
 最初、妊婦さんはワクチン対象者から外れていましたので、一転して接種するように推奨されても「エッ!どうして急に変わったの?妊婦に打って大丈夫なの?」と妊婦さんたちの間で混乱が起き多くの質問を受けましたが無理も無いと思います。

 余談ですが、医学の世界では新しいエビデンスが出ると今までの治療法が真逆に変わったりすることが時々あります。今回も妊婦に関するデータが少ない時期は肯定的ではありませんでしたが、有意なエビデンスが揃ってきたので推奨に変わったと云うことです。
 昨日まで駄目ですと言っていたのが、今日急に打ってくださいと云わなければならない我々臨床医も忸怩たるものがあります・・・。

 当院も妊婦枠を設け対応に当たりました。最初は戸惑いもあったようですが、結局あれから2カ月間でほとんどの妊婦さんが接種されました。その間、他院でお産する人も予約されて、当院の妊婦さんが妊婦健診日に予約出来なかったりご迷惑をおかけしたことをお詫びします。
 ほとんどの妊婦さんが接種されましたので今更感はありますが、これから妊娠される人のためにも、ここでもう一度妊婦さんが新型コロナワクチンを接種することの有用性について、おさらいをしておきたいと思います。

 先ず前提として、妊婦さんが新型コロナに罹ると同年輩の非妊婦の人より重症化するリスクが高いと云う事実があります。その原因は妊娠して子宮が大きくなり横隔膜を圧排するので肺胞の活動が脆弱となり肺炎が重症化し易いためです。重症化すれば流早産の危険が増すだけでなく、コロナ治療のために妊娠を諦めなければならない事態も起こります。又、妊婦さんの呼吸状態が悪くなると、妊婦さんだけでなく胎児の酸素濃度も下がり、新生児の状態が悪くなってしまう可能性もあります。ですから妊婦さんと赤ちゃんを守るためにワクチン接種が大切です。
 接種した場合先ず気になるのが副反応だと思います。アメリカなどの報告では同年代の非妊婦の女性の副反応と有意差は無かったと云うことです。一番多いのは注射部位の疼痛と腫脹ですが、これは他の予防注射でも起こることで許容範囲だと思います。
 次は妊娠への影響ですが、自然流産、死産はもちろんある確率で起こります。しかし、ワクチン接種者が有意に多いという報告は無いようです。又、胎児に対してもどの時期にワクチンを打っても悪影響は与えないと云うことです。
 新生児に関しても、低出生体重児、先天性異常、新生児死亡など自然発生頻度と有意差は無かったとしています。逆に抗体が胎盤を通して胎児に移行するので新生児も守られると云う利点があります。
 当院では原則として器官形成期が終わる妊娠12週から1回目を打つようにしています。その訳は妊娠12週以前は自然流産が多いので、もし流産した時に妊婦さんがワクチンを打ったせいではないかと自分を責めるようなことを防ぐためです。しかし、1回目を接種した後に妊娠がわかった場合とか、流産治療中の場合とか、ケースバイケースで妊婦さんの希望に合わせて進めています。

 10月に入り急にコロナの新規感染者が減りました。東京都でさえ2桁になり名古屋では10数人です。時短などの規制が解かれても減り続けていて、もう流行とは言えないくらいです。専門家たちもここ迄急減した理由が良く解らないと云っていますが、ワクチン効果が有ったことは間違いないと思います。
 これから冬に向けて第6波が始まるかもしれません。インフルエンザの季節にもなりました。妊婦さんでまだ接種していない人は自分と赤ちゃんを守るためにぜひ新型コロナワクチンを打ってください。