2016年11月21日
第128回
ピルの止め時が悩ましい!!
この学術集会は毎年開催場所を各県持ち回りで行いますが、今年は沖縄。しかも会場が津梁館と云う事もあって例年より参加者が多かったようです。何を隠そう!私もそれで行った一人ですが・・・。
例によって前置きが長くなりましたが、今日の主題は、この学会でも論じられていた、ピルの止め時の話です。
ピルを飲む目的はもちろん第一が避妊ですが、子宮内膜症や子宮筋腫などで起こる過多月経、月経痛の治療のために飲んで人も沢山います。患者さんにはどうでも良い事ですが、同じ内容の薬を、我々医療者は避妊目的の時は自費扱いで"OC"と云い、月経困難症治療目的の時は保険適応で"LEP"と云い分けています。
さて、避妊の方法は色々ありますが、総合的に判断して現在では低用量ピルが第一選択だと思います。飲み忘れなければ避妊率はほぼ100%ですし、月経困難症の治療薬にもなっている位ですから、月経量の多い人や月経痛の酷い人は軽減します。月経周期も一定しますので、日々の予定も立て易く、一方、ホルモン変動が少ないので月経前症候群にも効果があります。ついでに云えば、ニキビや多毛症が改善する人もいて良いこと尽くめですので、一度始めたら多くの人がなかなかやめられません。
しかし、低用量になったとは云え副作用もあります。一つは乳がんリスクを高める可能性があると云う事ですが、最も問題になるのは血栓症リスクです。発生リスクとしては、年齢、喫煙、肥満、高血圧などが関係します。その中でも特に考慮しなければならないのが年齢で、40才では20才代の2倍以上に増加します。ちなみに喫煙は1日5本以上でリスクが上がると云われています。では3本なら大丈夫かと聞く人がいますが、どうでしょう?私には良く解りません。一方で投薬開始後3か月以内の発病が最も多く、その時期を過ぎれば発生リスクは減少します。又、エストロゲン量が低ければ低いほど発生リスクは下がりますので、現在は薬効ぎりぎりまで、エストロゲンが低用量になっているのです。そのため、リスクと云っても、発生率は10,000人に1人位と極めて低いものでほとんどの人は発生しません。
しかし、リスクがある以上、我々医師としては40才を超えたら他の方法に変えましょうと助言しています。
1年か2年の短期避妊のためにピル(OC)を飲んでいる人は投薬期間が決まっているから良いのですが、子供を産みあげてからの避妊目的の人、月経困難症の治療のために飲んでいる人はその中止の時期に悩みます。先にも述べたように良いこと尽くめの薬ですので、患者さんに取っては今安定している状態が変わることが心配で、もう少しだけ続けたいとおっしゃいます。実際に中止して症状が再発し、やっぱりピルを再開したいと云われる人も多いです。避妊目的の人で月経が来る人は妊娠を恐れて性行為がうまく出来ない人もいますし、もし望まぬ妊娠をされても困りますので、我々も中々きつく云えません。それでズルズルもう3カ月、もう3カ月と続けてしまうのが現状です。
避妊を中心に考えれば、次は子宮内システム(LNG-IUS)に切り替える。昔の子宮内リングに黄体ホルモンが内蔵されているような物で局所における黄体ホルモン連続療法です。避妊はもちろん、過多月経、月経困難症にも効果があり、5年間は装着したままで良いので、飲み忘れの心配もありません。唯、子宮内操作が要りますので、未経産の人には向いてないかもしれません。その間に更年期症状が出てくれば、卵胞ホルモンだけ少し補充すれば良いと思いますし、逆に妊娠の心配は無くなった訳ですからIUSを外して、もし更年期症状が出るならホルモン補充療法(HRT)に切り替える手もあります。
月経困難症治療が主な人もこの方法(LEP-IUS-HRT)でも良いですが、子宮内操作が嫌ならば、黄体ホルモンの一種であるジェノゲスト治療を45才位から暫く挟んで、51~2才からHRTに移行すれば良いと思います。唯、ジェノゲストには絶対的な避妊効果はありません。
とまぁ、理論的には上記のようにすれば良いのですが、現実には患者さんの事情や希望もあり理論通りに変更するのがなかなか難しい現状です。
最後に、今ピルを飲んでいる人にお願いがあります。突然の足の痛み・腫れ。手足の脱力・麻痺。突然の息切れ・胸の痛み。激しい頭痛・舌のもつれ・しゃべりにくさ。突然の視力障害。等の症状が出たらすぐに救急医療機関を受診してください。
もしかしたら血栓症の始まりかも知れません。その場合は早期の治療で大事にならずに済みます。念のため!