2022年3月18日
第192回
不妊治療が保険適応になった
 三寒四温と云いますか、3月に入っても寒かったり温かかったり落ち着きませんでしたが、やっと此処に来て春らしくなりました。春の息吹を感ずると何となく心が弾みウキウキします。啓蟄の時期ですし、コロナ過と云えども、殻を破ってパッと花見旅行にでも出掛けたい気分です。愛読者の皆さんもきっと同じお気持ちだろうと思います。

 今月は北京オリンピックの総括をすると前回予告しましたが、今やパラリンピックも終わってしまい、オリンピックなどすっかり過去の出来事になって今更感がありますので止めて別の話題にします。

 今年の4月から殆どの不妊治療が保険適応になります。人工授精などの一般不妊治療はもちろん、体外受精・顕微授精などの生殖補助医療も採卵から胚移植まで一連の基本的診療がすべて適応になりました。更に追加的に実施される可能性のある治療のうち、先進医療に位置付けられるものについては、保険診療と併用可能となりました。
 これは日本生殖医学会が不妊治療の医療技術についてエビデンスの評価を取りまとめた生殖医療ガイドライン等を踏まえて保険適応になったと云うことですので、我々産婦人科医、特に不妊を専門としている者にとっては、実績が認められたと云うことで大変嬉しい限りです。
 もちろん、最も喜んでいらっしゃるのは、赤ちゃんが欲しくて不妊治療を受けている不妊症のカップルの皆さんだろうと思います。
 不妊治療の最大の難点は受診日数が多いこと。それも必ずしも予定出来ないこと。特定不妊治療助成金制度はありましたが、原則自費で高額なこと。しかも治療期間が長いこと。その挙句に生児獲得率が低いことです。
 その内の最大のネックの一つ治療費が保険適応で安くなり、高額医療控除を使えばある程度定額で受けれるようになったことは不妊に悩んでいる人が不妊治療に踏み切り易くなったでしょうし、長く頑張れる要因にもなるでしょう。我々も次の治療を勧めるのに費用をあまり気にしなくてもよくなり、関係者にとっては大変有難い政策だと思います
 唯、政府がこの不妊治療の保険適応を少子化対策の目玉のように宣伝していることには抵抗があります。確かに今や出生数の13人に1人、約7.7%が不妊治療で生まれた子供です。少子化対策の一助は担っていると思いますが、元々赤ちゃんが出来にくい人を治療する訳ですから、生児獲得率は20%位で低く、残りの80%は長い治療の末諦めてしまうと云う効率の悪いものです。そして対象も限定されます。
 だから、もしも本当に政府が少子化対策を考えているのなら、普通に妊娠出来る人がもっと産み易くなるような政策を取った方が効果的だと考えて、機会あるごとにフランスなどを例に挙げて吹聴していますが、私如きの提案など取り上げてはもらえないようで残念です。
 例えば、フランスでは出産手当だけではなく(これは日本も出ていますが)、18歳で成人するまでの養育費も出す。しかも2人目は1人目より手厚く、3人産めばもっと手厚く出すと云う政策を取りました。その結果、合計特殊出生率が1.89位まで上がり、なんとか人口減少が止まるかと云うところまで来ています。
 合計特殊出生率とは一人の女性が一生の内に産む子供の数を示しています。子供は女性しか産めませんので2人産んでやっと自分たちと同数の子孫が保てたと云うことになります。ところが今日本では合計特殊出生率が1.34(2020年)位ですのでドンドン出生数は減っていきます。
 それでもフランスのような政策を取らないのは、子育支援事業費は不妊治療の保険適応費用とは桁違いの予算が要りますので二の足を踏んでいるのかもしれません。だが不妊治療の保険適応位で少子化に力を入れていると云われても違和感があります。
 厚生労働省が2021年の人口動態統計(速報値)を出しました。それによると出生数は842,897人で前年比29,786人減、これは6年連続で過去最少を更新したそうです。一方、死亡者数は戦後最多の1,452,289人で、人口の自然減は609,392人で過去最大となったと云うことです。人口減に歯止めがかからず、社会保険制度の維持も危ぶまれると解説していました。去年は新型コロナの影響があったとしても、少子高齢化、人口減少の大きな流れは変わらないだろうと思います。もちろん、少子化対策は重要ですが、人口が1億2千万人から8千万人に減少しても安定して暮らせるような社会を構築する政策を考えないといけないと思います。そうしないと日本が崩壊してしまいます。
 少子高齢化問題は天下国家については10年、15年先の心配ですが、我々お産病院に取っては明日の経営に直接響く死活問題です。
 是非皆さん妊活に励みましょう!