2017年10月20日
第139回
拍子外れのロータリー卓話
今回は“寒暖差疲労”では無くて、久しぶりにロータリーで卓話をした話です。ロータリーや産婦人科医会の会長をしていた頃は毎週のように壇上に上がってスポットライトを浴びていました。しかし、会長を辞してからは暫くそんな機会がなく、影が薄くなって寂しい思いをしていましたので、折角のチャンスに“産婦人科医療の最前線”について朗々と語ろうと準備を始めていましたら、委員の人に「ここ2~3週硬い話が続いたので、先生は得意の軽い面白い話をしてください。出来れば仕事に絡んだ話が良い」と云われてガックリしてしまいました。“俺は別に軽い話が得意ではない。学問的な話だって出来るんだ。馬鹿にするな!”と思いながら、それでも気を取り直して業界用語の“ムンテラ”について語りました。さわりを少し述べますと。
《皆さん、色々な仕事をなさっていますが、お客さんに対してそれぞれ、その職業独特な話し方、話術があると思います。
医者も患者さんやその家族に対して、病気の説明をしたり、治療の同意を得たり、結果を話したりしますが、それを業界用語で、“ムンテラ”と云います。これはドイツ語でムントテラピーの略です。ムントとは、口と云う意味で、テラピーとは治療と云う意味です。直訳すれば“口治療”即ち“話術で治す”と云うか“患者さんとの対話による治療”と云う含蓄のある意味深な言葉です。結果は一緒でもムンテラ如何によって患者さんの安心度、あるいは不安度は様々です。正に“ムンテラ次第”と云うことになりますので、医者としてはムンテラに細心の注意を配らなければならないところです。同じような治療をしているのに、片方は流行っていて、もう一方は閑古鳥と云うのはこのムンテラに懸かっているかもしれません。正にムンテラ次第です。あんまり強調すると医者もペテン師のように思われてしまいますのでこの辺にします。
このムンテラと云う言葉は、仕事以外でもゴルフや麻雀でも使われます。当クラブにも少なからずいらっしゃるので状況は良くお解かりだと思いますが、口でゴルフや麻雀をしている人がいます。それもただ喧しいだけでなく、意外と的を得ていて、巧みに相手の弱点を突くので、その毒気にあてられて、やられてしまうことがあります。その時の言い訳に「今日は、あいつのムンテラにやられた」と使います。逆に口の攻撃が功を奏して、勝った時は「今日はムンテラが効いた。あいつは意外とムンテラに弱い」と小声でほくそ笑みます。
さて産婦人科となると妙齢のご夫人を相手にほとんど下ネタの話、下ネタとは言わないまでも下の話をしなければならないので、医者の中でもかなり特殊なムンテラが必要になります。一流の芸人は下ネタ無しで笑わせるが、二流の芸人は下ネタで笑わせると云われますが、我々は妙齢のご婦人相手に下ネタを話しても笑わしてはいけない、恥ずかしがらせてもいけない、しかも相手にも下ネタを話して貰わないと仕事にならないと云う、これまた大変難しい高度な話術が求められています。そこを上手に引き出すのが婦人科医のテクニックと云うことになりますが、私もやっと最近産婦人科的ムンテラの特技を身に付けて構えているのに、この頃の私の患者さんは元妙齢なご婦人ばかりになってしまって実力を発揮しなくても大丈夫なのが残念です。しかし、修行の甲斐あって、夜の錦で、女の子により具体的な話をさせるのは上手になりました。彼女が思わず固有名詞を使って生々しく話しているのを、隣の席で誰とは云いませんがロータリーの仲間がニヤニヤしながら聞いています。ところが彼女が個人的な婦人科的悩みについて訊ねた時、それは病院へ来てお金を払って聞くことだろうと思いながらも、つい鼻の下を伸ばして答えてしまうのはまだ修行が足りないと反省しています。》
結構笑いは取れました。