2023年5月19日
第206回
新たな男女産み分け法
 春爛漫。風薫る5月。新型コロナ5類移行。5月に入って気候も穏やかになり、コロナ規制もほぼ撤回されて、やっと世間には以前の日常が戻ってきました。
 さすがに病院は一気に世間並みとは行きませんが、それでもかなり規制を緩和しました。例えば、外来診察室にご主人など付き添いの方が一緒に入って来られるようにしました。もう3年間も患者さんだけと対面していましたので最初少し当方にも戸惑いがありましたが、段々慣れてご主人もまじえた対話を思いだし、以前のペースを取り戻しながら診察しています。
 一方病棟は賑やかになりました。元々産科病棟は沢山のお見舞客が来院され、おめでとう。おめでとうの声に溢れ、病院としては珍しい明るい賑やかな所ですが、そんな雰囲気が戻って来て良かったと思います。
 又、前置きが長くなりました。本文に入ります。

 昔から、男女産み分け法は色々ありました。性を決定するのは精子で、Y染色体を持つ精子で受精すれば男の子。X染色体精子で受精すれば女の子になります
 男の子を望むならY染色体の精子で受精しなければなりません。先ず行われていたのが膣のpHの調整です。膣内は酸性ですが、Y染色体精子はアルカリ性を好みますので、出来るだけ膣内をアルカリ性に近づける必要があります。排卵時直前に増える頸管粘液はアルカリ性ですので排卵直後に性交するよう勧めたり、膣内をアルカリ性にするゼリーを性交前に挿入する方法もありました。
 逆に女の子が欲しい時は、膣内を出来るだけ酸性に保ちY精子の活動を鈍らせる必要があります。そのための酸性ゼリーもあります。あるいはX精子はY精子より膣内の活動時間が長いのを利用して、排卵2日前に性交して後はしばらく禁欲してもらいます。するとY精子は排卵までに妊孕力を失い、受精可能なのはX精子のみになると言う理屈です。
 一方で、Y精子はX精子よりわずかに重量が軽いことが解っています。それで精液を遠心分離して、男の子が欲しい時は上澄みを取って人工授精し、女の子が欲しい時は沈殿部分で人工授精させるという方法もあります。
 これらの方法は今も実際に行われています。個人的には思い通りに産み分けれたカップルもいたと思いますが、統計的には成功率は60%にも届かない程度です。だから医者側としては、あまり自信をもって進められる方法ではありませんでした。
 不妊症で人工授精をする時に産み分け希望をされるカップルがありますが、当院では最近はお断りしていました。

 ところが、3月の医学雑誌でアメリカのワイルコーネル・メディスン教授のPalermo氏らによって以下のような発表がありました。
 顕微授精で着床前診断を受ける1317組のカップルの内、子供の性別について希望のあった105組に対し、多層の密度勾配による分離を用いた精子選別(この方法は私には良く分かりませんが、高密度媒質の中で精子を泳がせると、重量の軽い精子は浮上し、重い精子は下へ沈むと言う極めてシンプルな考え方に基づくもので、サイズの異なる粒子を重量によって分離させる精度の高い方法のようです)により性別を選んだ上で顕微授精をしたところ、女児を希望した59組のカップルの内79.1%が女性胚で、男児を希望した46組の内79.6%が男性胚だったということです。なお、3歳時点でこの子供たちに、発達障害など健康上の問題は無いとのことでした。
 約80%が希望通りに産み分けられた訳で、これは今までの方法と比べ格段の進歩だと思います。もちろん、この技術は不妊治療とは関係なく産み分け希望だけでも利用できますので、倫理的な配慮も必要になってきます。例えば、血友病とか色覚異常など性別に関連する遺伝性疾患の回避のためなら正当な理由だと思いますが、家族バランスとか、社会情勢の有利さで利用されるようになると、社会の不均衡や男女比のアンバランスが現実的になってきます。
 元々自然界では男児が若干多めに出生しますが、男児の方が脆弱なので乳幼児期に少し多めに死亡して、成人では男女ほぼ同数になるように出来ています。この自然界の摂理が80%の成功率を持つ新しい産み分け法によって崩れてしまうのではないかと危惧します。

 もし今の日本で皆さんが好きなように産み分けたら、どちらを望むのかなぁ。男の子かなぁ。女の子かなぁ。???。