2022年2月18日
第191回
家族で乗り切る更年期
 北京冬季オリンピックの真っ只中です。日本選手団も頑張っていますが、先月私が大甘予想をしたような良い結果は得られていません。やはり世界中の選手がオリンピックに一発勝負をかけていますので、世界の壁は厚くそんなに甘くは無いようです。
 しかし、オリンピックはまだ開催中ですので今後の日本選手の活躍に期待を込めて総括は次回に廻し、今回は久しぶりに更年期がテーマです。

 先日、NHKの番組“あさイチ”で「一人で我慢しないで家族や社会と乗り切る更年期」と云うテーマで更年期障害を取り上げていました。
 そもそも更年期とは “生殖期から生殖不能期への移行期を云い、卵巣機能が衰退し始め、消失する時期にあたる”と定義され、この時期の最大のイベントは閉経で、閉経年齢は48才から53才までが多く、ピークは52才とされています。その間に付随して出現する様々な不定愁訴を一括して更年期障害と呼び、原因は“急激なエストロゲン(卵巣ホルモンの1種)の低下とその後に起こる卵巣刺激ホルモンの増加に起因する“と考えられています。ですから内分泌因子が主な原因ですが、心理・性格因子、社会的・家庭的環境因子も考えられ、念頭に置いておかねばならない原因の一つです。
 今回は紙面の関係で、不定愁訴と云われる更年期障害の複雑な症状やその治療法、対処法については書きませんでしたが、詳しい内容については随分昔になりますが、第8回第10回の院長コラムと第39回の理事長コラムに解説してありますので興味のある方は参照してください。

 番組の中で幾つか気になる点がありました。

 その一つは更年期障害かなと思う症状があっても周囲の人(家族や友達)に気楽に云えなくて一人で抱えこんでしまい、辛い思いをしている人が多かったことです。更年期は全ての女性が経験することで、障害が出たとしても別に恥ずかしい病気ではないし、風邪を引いた時と同じように家族に気楽に告げられると思っていましたが、女性にとって更年期障害はあまり公表したくない病気のようで、ゲストの有森裕子さんが閉経すると云うことは女でなくなったようで寂しい一面があると云っていましたが、更年期障害が出たと云ことは風邪を引いたと云うこととは次元が違うようです。風邪と同じように家族に伝えて休めば良いのにと考えるのは思慮が浅かったと反省しました。長年更年期女性に関わってきてそれなりに解っていると自負していた私ですが、繊細な女性の機微まで気付いていませんでした。産婦人科を受診された患者さんはその精神的葛藤を乗り越えてやっとの思いで来院されたのだと云うことを肝に銘じなければなりません。
 でも一人で抱えていても辛くなるばかりで解決しません。周囲の人に話すだけでも気分が晴れて症状が軽くなります。また、良いアドバイスを受けれるかもしれません。是非、家族には話してください。そして出来れば産婦人科を受診してください。

 次に多かったのが医者にかかるほどの症状ではないと我慢している。これは解ります。症状は出る日も出ない日もあり、日動変動もあって、あまり重症感はありませんし、更年期障害だからいずれ治ると思って我慢してしまうと云うことでしょう。

 一番気になったのは、年を取ってから産婦人科に行くのは抵抗がある、敷居が高いと云う人がかなりいらしたことです。理由の中に若い妊婦さんの中に年寄りがいるのが場違いな気がすると云うものがありましたが、それは思い込み過ぎだとして、内診台に上がるのが嫌だという人もいました。症状の中に性交痛とか尿漏れとかあれば内診台に上がってもらうこともありますが、普通はお話を聞くだけで内診することはありません。更年期障害と思ったら早めに産婦人科にかかられることをお勧めします。

 婦人科へ行っても、すぐ症状を取って欲しいのに検査ばかりされて治療が中々始まらないと不満を言われる人がいました。ご尤もだと思いますが、更年期障害には不定愁訴と云って、色々な症状が、程度も様々に出ます。だから患者さんの症状を聞いて簡単に更年期障害と診断出来ないところがあります。その症状が更年期障害の症状なのか、ほかの病気の症状なのか鑑別診断をする必要がありますので、ある程度の検査は必要です。ですから産婦人科に行けばすぐ治療が始まると云う訳にもいかないのです。ご理解ください。

 最後に家族(特に主人)の理解が得られないことが挙げられていましたが、単純に家事を手伝えば良いと云う問題では無いので、なかなか難しいと思います。心療内科とか精神科の医者に必ず云われることですが「家族の協力が必要です。そうでないと治るものも治りません」言い換えれば、家族(特に主人)は我慢しなさいと云うことです。怒ってもいけない、注意しても駄目、励ますのも程々にして、ただひたすら優しく肯定してあげることが大事と云うことですので大変です。

 いずれにしても、HRT(ホルモン補充療法)など有効な治療法がありますので、一人で我慢しないで早めに産婦人科を受診されることをお勧めします。