2018年5月21日
第146回
今、はしか(麻しん)が流行っています。
平成30年3月20日、沖縄県内で旅行客が麻しんと診断され、この旅行客と接触のあった人や同じ施設を利用した人を中心に断続的に沖縄県内で麻しんの罹患者が続いています。
名古屋市においても、4月11日に沖縄県に旅行していた10代男性が、麻しんと診断され、その後2次感染、3次感染と続き、5月13日には4次感染の人が3名発病して、5月15日までに合計23人の感染者が出ました。
一応、平成27年3月27日付けで、日本は麻しんの排除状態にあると認定されていますが、その後も渡航歴のある人や、その接触者から患者の発生が散見されていました。しかし、今回の事態は散見では無くて流行と言っても良いでしょう。
そこで、麻しんについて簡単におさらいします。麻しんは麻しんウイルスによって引き起こされ、ヒトからヒトへ感染する病気です。感染経路としては、飛沫感染、接触感染のほかに、空気感染することが知られており、またインフルエンザなどに比べて感染力が非常に強いため、麻しんに対する免疫がない人が感染するとほぼ100%発症します。
症状としては、約10日から12日間の潜伏期間を経て、発熱や咳、鼻水と云った風邪のような症状が現れます。その後、38℃前後の発熱が3日から4日続き、一旦下降して再び39℃以上の高熱と発疹が全身に広がります。重症化すると肺炎や脳炎などを起こし1000人に1人の割合で死亡する可能性があります。妊婦さんは発症すると重症化しやすく、流産や早産の危険性が増します。ただ、胎児への影響は心配ないようです。
発病したら特異的な治療法はなく、対症療法が中心となります。そのため、麻しんに罹らないためには、2回の予防接種が最も効果的な方法です。現在は第1期が生後12か月以上24か月未満。第2期が小学校就学前の1年間に接種するよう定められており、ほぼ95%の子供が接種していますが、1977年4月1日以前に生まれた世代は、任意接種であったため、1度も接種していない可能性があります。但し、感染し自然に免疫を獲得しているのが普通です。1977年4月2日~1990年4月1日に生まれた世代は1回接種法であり、キャッチアップキャンペーンにも非対象だったため、免疫がついていない可能性が高く、最も感染の危険性が高い年代です。1990年4月2日以降に生まれた世代は、キャッチアップキャンペーンを含めると、これまでに2回接種する機会があったはずですが、必ず受けているとは限らないので個人的に調べてみる必要があります。又、患者に接触してから3日以内であれば麻しんワクチンの接種により発病を予防出来る可能性があります。しかし、妊婦さんはワクチン接種が出来ませんので、予防の仕様が無く厄介です。
さて、名古屋で流行っていると云うことになれば当院にもはしかの患者さんが来院されるかも知れません。当院は当然ながら妊婦さんはもちろん、赤ちゃんや子供さんも来院される病院ですので、それらの人に感染しないように、麻しんの症状のような患者さんは隔離診察室で診ることにしました。しかし、職員がどこかで移って来てそれを患者さんに移す可能性もあるので、職員のワクチン歴を調べて、1度しか打ってない人はすぐ打つようにしようと思ったのですが、本人が自分のワクチン歴をはっきり覚えていません。親に聞いてもはっきりしないと云うことです。そんなことは無いだろう。母子手帳を見れば書いてあるはずだ。と云ったのですが、誰も自分の母子手帳を持って無くて、親が持ったままになっているらしいのですが、親もどこかに仕舞い忘れて出てこないと云う現状でした。世界に冠たる日本の母子手帳。長期母子管理の手段として欧米も見習い、最近では中近東の諸国も取り入れていると云うこの優れた制度が、おひざ元の日本で生かされていないのは残念です。妊娠中は母子共の管理記録ですが、生まれた後は子供の成長の管理記録です。特に予防接種などは時期、種類、回数などが正確に記録されているはずです。その肝心の母子手帳の存在がはっきりしないと云うことが分かりました。これは大問題です。それで提案ですが、成人式の時とか或は結婚する時にお祝いの中に母子手帳も入れて本人に渡す習慣にしたら如何でしょう。このアイデア駄目かな?
余談ですが、流行り病が流行すると、乳幼児、妊婦、高齢者は罹患弱者として大事にされます。でも、はしかに関しては、我々高齢者はすでに罹患済みで再発の心配が無いので弱者から外されています。これは嬉しいような、大事にされずに物足りないような複雑な気持ちですが、老人のひがみですかね。
例年、麻しんの流行は春から初夏までと云われています。今年もそれで収まると良いのですが心配です。いずれにしても、妊婦さんは罹らないように気を付けてください!。と云っても予防の仕様が無いですが・・・。お大事に!