2005年4月6日
第2回
サブタイトル 「一病息災」 命名の蛇足
コラムの内容としてはあまり肩苦しいものや、学問的過ぎるものではなく、優しく心温まること、楽しくユーモアに富んだこと、などを多少の皮肉や、風刺を交えて書けたらと思っています。
一方病院発信のコラムですから、そんな雰囲気も出したい。かと言って変な造語にはしたくない。などと千思万考(下手な考え休むに似たりの意味も含めて)の末、最終的に残ったのが「一病息災」でした。
病院だから「一病息災」より「無病息災」の方がイメージが良いのではないかと言う意見もありましたが、病院だからこそ一病ぐらいは有って来院して貰えるようなタイトルにすべきだし、それにそもそもの意味が広辞苑によれば、「無病息災」は「病気もせず、健康に暮らしている事」とあり、努力も注意もしない受動的な息災なのに対して、「一病息災」は「持病が一つくらいある方が、無病の人よりも健康に注意し、かえって長生きすると言う事」とあり、摂生の結果としての息災で能動的で、同じ息災でも「一病息災」の方が「無病息災」よりも前向きで価値が高そうだし、又現在の私の身体の状況からも「一病息災」の方が相応しいと思い決定しました。
と申しますのは、もともと私は子供の頃から健康優良児で、小学校の5年生の頃に虫垂炎の手術を受け、1週間ほど学校を休んだ以外病欠はほとんどありませんでした。もっとも病欠と称したズル休みは高校の頃から覚え、大学生になってからは頻度が増したように記憶していますが・・・。
医者になってからも、医者の不養生で結構不摂生をしていたにもかかわらず、平成10年に胃がんで入院するまで一度も病欠はありませんでした。風邪ぐらいは時々ひきましたが、どうしてか高熱が出たりしないので、ゴホン、グスンと咳、鼻水が出て体調は結構辛いのですが、廻りから休むほどでもないよと言われて渋々出勤していました。
もっとも一度だけ病欠の危機があったのですが。それはまだ30代の始めで、大学の助手だった頃、明日が学会だと言うので、前日の土曜日の午後、最後の仕上げの作業をしていました。その時、15名ほどの医局員が居たと思いますが、夕食時に皆で仕出屋に弁当を頼み美味しく食べました。その後それぞれ準備が整って、いったん帰宅したのですが、その頃から顔面蒼白、脂汗が滴り落ち、汚い話ですが下痢、嘔吐の連続となり、尋常な状態では無くなったので点滴でも打とうと大学に戻ってみたら、すでに何人かの同僚が医局でぶっ倒れて点滴をしており、にわかに医局が産婦人科医の食中毒病棟になってしまいました。翌、日曜日はまだ下痢は止まらず、熱もあり、食欲もゼロでしたが、学会発表があったので、おむつをしながらやっとの思いで発表だけ終え、又医局に戻って点滴を再開して、脱水症状を何とか治して帰宅しました。月曜日も当然フラフラでだめだろうと思って居ましたが、朝、目がさめたら意外や気分も悪くなく、食欲も有って、これで休む訳にはいかないなと思い出勤してしまい、結局病気は日曜日だけで病欠ゼロが続きました。蛇足ですが、この時ほとんどの人がひどい食中毒になったのに、同じ物を食べても何とも無かった人が2名ほどいました。人間とは思えないすごい胃を持った丈夫な人もいるものです。と言うような訳で不摂生で、ほとんど健康に対する自己管理もしないのに元気で、それこそ無病息災でした。
開業してからも病欠ゼロは続きますが、規則で仕方なく毎年健康検査を受けるようになりました。それも管理者と言う事で項目が他の職員より多くて胃の検査も受ける事になっていました。他人の検査をするのは平気ですが、自分が受けるのは嫌いで、特に胃カメラはオエッ!となるので大嫌いでしたが、今から考えれば我慢して受けていて良かったと思います。
お陰で胃がんが初期のうちに見つかり、手術だけで済みました。ただ初期がんなのに場所の関係で胃を全摘しなければならないとの事でした。全摘すると胃の機能が全く無くなってしまいますが、少しでも残しておけば、当面胃袋としての役目は期待できなくても機能は残るので、五体満足とはいかないまでも一応五体は存在しますので、何とか残せないかと抵抗しましたが駄目でした。セカンドオピニオンではないですが、2~3名の友人の外科医に相談しましたが、一様にお前の場合は全摘の方が良いとの答えでした。ひょっとして初期では無いのではないか?告知で隠している事があるのではないか?などと疑心暗鬼になったりもしましたが、まあそれならそれでもいい、騙されてやれと腹をくくって手術を受けました。
いまだに再発もせずに生きているところを見ると嘘ではなかったようです。術後の経過は必ずしも順調ではなくて、3週間の入院の予定が3ヶ月掛かりました。医者になってから35年、病気無欠勤だったのを、一気に使ってしまう羽目になりました。さすがに私もそれからは身体に気を配るようになり、特に食事、睡眠に注意し、運動も考慮して体調の維持に努めています。
お陰で以前ほどの体力は無いにしても、胃を全摘した人の中では後遺症も少なく元気に過しています。これぞ正に「一病息災」で、今の院長コラムに相応しいサブタイトルだと思い決めました。